800字を上限にした小説(誤差-50字まで)。メインカプは義炭です。
1P辺り5作を目処にしています。1作目から50作目をこちらに掲載しています。
51作目からは『800文字で恋をする 51~100』へどうぞ。
お題 幸せにしてあげて テーマお題でイチャイチャさせったー CP場面設定ガチャ
追伸は俺もの三言でした ’20-11-4
●お題:メール(手紙)の言葉を丁寧に選んで書いている義炭 ※原作軸 義←炭
尋常小学校もろくに通っていないから、手紙の書き方だってよく知らない。学のある人からすれば、変な言葉遣いも多いんじゃないかなって思う。怒ったり馬鹿にされたりしたことはないけれど、ちょっと不安になった。
義勇さんが一度も返事をくれないのは、俺の手紙が変だからかもしれない。だから、ちゃんとした文を書けるようになりたいのだと言ったのを、覚えていてくれたらしい。善逸が手紙の綴り方の本を見つけてきてくれた。ちょっぴり偉そうに。俺が感謝したのは言うまでもない。
でもすぐに柱稽古が始まって、せっかくもらった本は、宝の持ち腐れになっている。
今は毎日逢える。でも、だからこそ手紙を書こうと思った。あの人の伸びた背筋のように正しい所作で。
丹念に墨をすった。新しい筆を下ろして、一文字ずつ丁寧に。
『謹啓
晩秋の候、貴兄におかれましてはご清祥のことと存じます』
そこまで書いて筆が止まった。今までは自分が見たもの聞いたものを、なんでもあの人に伝えたくて、ただ文字を書き連ねていた。けれど今、伝えたい言葉はひとつきりだ。
書きあぐねて、どうしようと悩む。でも、どうしても伝えたいんだ。ためらいながら、それでも丁寧に筆を走らせた。
『思ひを伝えるといふのは初めてにつき、不手際ございましたら御寛恕いただきたく存じます。
心よりお慕い申し上げております。
末筆ながらご自愛専一にて精励くださいますようお願い申し上げ候。
謹白
竈門炭治郎
冨岡義勇様』
渡せぬまま持っていた手紙は、穏やかな春の日に、ようやく彼の人の手に渡り。
そして。
薫風のみぎり、返事は、口づけとなって返ってきた。
夜明けの鴉には気づかぬふりをいたしましょう 11-5
●お題:あくびがうつって二人して眠そうに笑っている義炭 ※原作軸 両想い
柱稽古のあとで夕飯を一緒に食べた日は、義勇さんは蝶屋敷まで送ってくれる。
両想いだろうなぁって気がするようになったのは、つい最近。兄弟子に恋をしていることに気がついたのと、ほぼ同時だった。
口にするのはためらいがあった。きっと義勇さんも同様だろう。
でも、きっかけがあればおそらくは、この関係は変わる。色恋にかまけてる場合じゃないと、互いに抑えている想いを、溢れださせるきっかけひとつを、心のどこかで探してた。
義勇さんは、前よりずっとまとう空気がやわらかくなった。まだ寂しくてつらい匂いはしてるけど、それでもこんなふうに笑いあっているときは、やさしくて甘い匂いがする。
夜道をふたり歩きながら月を見た。まん丸には少し足りない月だ。十六夜だと義勇さんが教えてくれた。
新月は闇が深い。だから隊士は皆、自然と月の満ち欠けや天候に敏感になるのだと、義勇さんは言った。
「十六夜は一晩中月が照る。だからこんな字を当てることもある」
言って俺の手を取り、手のひらに『不死夜』と書いたのに、多分、他意はなかった。くすぐったさと恥ずかしさに、首をすくめた俺を見た義勇さんも、とまどいと焦りの匂いがしたから。
これがきっかけになるのかな。ドキドキと待つ俺に、義勇さんが言ったのは
「鬼がいなくなり、禰豆子が人に戻ったら……寝待ち月を、一緒に見よう」
「へ? あ、夜遅くに出るやつですね」
拍子抜けしつつ、もちろんと笑った俺に、義勇さんはスンッと表情を消した。
その言葉の意味を理解したのは、すべてが終わって家に帰る前日のこと。
「そりゃ共寝の誘いじゃねぇの?」
宇髄さんに言われ、俺が奇声をあげて盛大にあわてふためいたのは、言うまでもない。
返事は口に出しては言えず、一言だけの手紙をしたためた。
『一緒に朝寝してくれるなら』
そのときは、きっと揃ってあくびして、気恥ずかしく笑いあう。
確認はキチンとしましょう 11-6
●お題:服を取り替えっこして遊んでる義炭 ※現パロ キメ学未来捏造 恋人設定
実家の大掃除を手伝いに行ったら、残してきた荷物を押しつけられた。いかにも苦々しい顔で言った恋人の、狭い六畳の部屋には、ダンボールの山。なるほど、それで呼び出されたわけか。衣類の箱はふたつで残りは全部本なのが、らしいといえばらしい。
「お下がりでよければ、持っていけ」
早速箱を開けたら、見慣れた服が想い出を漂わせて出てきた。
「制服! これください!」
「は? 高校卒業したのに、いらないだろ」
「いりますよ、だって義勇さんの制服ですよ!」
スンッと虚無感を漂わせた無表情は、まるっと無視。早速ブレザーに袖を通した。近頃まで着ていた制服も、義勇さんのってだけでテンションが上がる。
「じゃーん、どうですか?」
無言で見つめる目。あきれるにしても、なにかリアクションが欲しいな。
「……義勇さん?」
静かに伸びてきた手が、制服の襟に触れた。
「これを着ているおまえには、こんなふうに触れられなかったな」
するりと動いた不埒な手にあわてる。嘘でしょ、いつスイッチ入りました!?
寸前までの虚無顔はなんだったのか。薄く笑った恋人は、とんでもない色気を漂わせてる。ゾクッと背が震えた。脇腹辺りをさまよう手に、見つめる瞳の熱さに、あらぬところがキュッと縮こまって、いたたまれない。
生徒だった俺には決して触れてくれなかった手は、今では、隙あらば淫靡な手つきで触れてくる。ストイックな顔して意外と助平だなんてこと、恋人になれるまで知らなかった。
幻滅? するわけないだろ、そんなもの。慣れない腕を、ドキドキしながら逞しい背にまわした。
お泊りの予定じゃなかったのに盛り上がっちゃったせいで、帰りはかなりバタバタした。制服以外の服を段ボールのまま車に積み込んで、あわただしく送ってもらってホッと一息。
ほぼ同時に送ったラインは『パンツ』の一言。とり間違えたソレに、床にのたうち回ったのは言うまでもない。
コーヒーぐらいじゃ恋の甘さは消せません 11-7
●お題:後から間接キスに気づいて時間差で恥ずかしくなる義炭 ※現パロ 義←炭
おやつの半分こなんて当たり前だった。ご飯だって「一口食うか?」とわけてくれる。だから、まったく気にならなかった。同じスプーンで食べるのも、同じストローを咥えるのも。
「どうかしたか?」
怪訝な顔で義勇さんは首をかしげてる。手にはコーヒーの紙コップ。義勇さんが飲みかけの。
「いらないのか?」
一緒に買ったジュースが甘すぎて、口直ししたいのは確かなんだけど。それを飲んだら間接キスになっちゃうじゃないか。
義勇さんは気にならないのかな。なんて、馬鹿みたい。俺も気にしたことなかったくせに。
でも、恋をしちゃったから。
恋ってなんだか面倒くさい。ちょっとしたことで浮かれて舞い上がったり、切なさに胸が痛んだり。こんなふうに、当たり前だったことすらできなくなったりもする。
無言で凝視してたら、義勇さんからしょんぼりする匂いがした。あわててカップに手を伸ばしたら。
「……っ!」
「あっつっ!」
引っこめようとした義勇さんの手と、受け取ろうとした俺の手は、見事に激突。落ちそうになったカップに、これまたふたりで手を出したから、大惨事。
「火傷してないか?」
コーヒーをかぶった手を拭いてくれる義勇さんの顔は近い。迷惑かけたってのに、ドキドキする。
「顔にも飛んでる」
頬や口元を拭ってくれる義勇さんの顔にも、点々とコーヒーの跡があって、またあわてた。
「義勇さんも」
ハンカチを奪い取ってぬぐったら、義勇さんは少し苦笑した。
帰ろうかと手を出されたから、今度は素直にその手を取った。子ども扱い。でもやっぱり、ドキドキする。
洗濯して返そうと、ポケットにしまってたハンカチを手にして、はたと気づいたそれに、真っ赤になった。結局間接キスしちゃったんじゃないか!
あぁ、恋って面倒くさい。こんなことぐらいで恥ずかしさにのたうち回って、照れまくって。でも、どうしようもなく、幸せだ。
ごめんね、これだけは内緒だよ 11‐8
●お題:好きすぎて顔がまともに見られない義炭 ※原作軸 恋人設定
元々あまりしゃべらない人ではある。でも話しかければ、目を見て話を聞いてくれていた。
なのに最近なぜか視線があわない。話しかけてもちらりと視線をよこすだけで、すぐに目をそらされる。
「どう思う? 禰豆子」
聞かれたって禰豆子も困るだろうけど、ほかの誰かに相談するわけにもいかない。
「むぅむぅっ!」
小さな拳を握りしめ、禰豆子は真剣に答えてくれる。話せなくてもなんとなく通じるのは家族だからなのかな。
「……そうだな。ちゃんと聞いてみたほうがいいよな!」
「むぅ」
こくりとうなずいて笑う禰豆子に勇気づけられる。俺に初めてできた恋人が男の人だと知っても、こんなふうに笑って励ましてくれる禰豆子は、鬼になってもやっぱり自慢の妹だ。
「なんで俺の顔を見てくれないんですか?」
稽古の休憩中、勢い込んで聞いた俺に、義勇さんはスンッと表情を消すとあらぬ方を無言で見つめた。こういう顔をされるとなにを考えているのかさっぱりわからない。
「俺がなにかしちゃいましたか?」
「違う。そうじゃない」
言いながらも視線はどこか遠くを見てるから、なんだか悲しくなってきた。
しゅんと肩を落としたら、義勇さんは視線をさまよわせたあと、ようやく俺を見た。義勇さんの顔は整っていてきれいだ。じっと見つめていたら、とまどうように長いまつ毛が少し伏せられた。
「おまえを見ていると……自制心に自信がなくなる」
どういうこと? 首をかしげたら、大きな手のひらで目をふさがれた。ゆっくり近づく気配と、ふわりと唇に触れたなにか。すぐにそれは離れていった。
なにが起きたのか理解できるまで、数秒かかった。
叫んだ俺に、うるさいと眉を寄せた義勇さんの耳は赤かった。
「理解できたか」
「……はい」
熱い顔を手で覆って答えた。恋しすぎると、顔を見るだけで心臓が止まりそうにもなるんだな。これはさすがに、禰豆子にも話せないなぁとちらりと思った。