800文字で恋をする 1~50

贈り物はイッヒ・リーベ・ディッヒ 11-29 3作目

●お題:観光ガイドブックを買って旅行先の案を出し合っている。
※原作軸 恋人設定 義勇さんの家族について独自設定あり。(お題からかなり外れました……)

 隊士にも休日ができた。鬼が出ない今、鍛錬にもメリハリをということらしい。
 義勇さんと俺の休みは一緒。恋仲になったのだから一緒に出かければランデブーなんだろうけれども、浪漫はない、らしい。すみちゃんたち曰く、ランデブーなら断然浅草、日本語オペラや活動写真、カフェーでコーヒーを飲むのが浪漫なのだという。
 義勇さんと行くのはもっぱら図書館。俺は今まであまり本を読んだことがない。対して義勇さんは読書家だ。おかげで俺も本が好きになった。
 俺が今日選んだのはドイツという国の案内書。留学なんて縁がないけれど、見たこともない異国の暮らしや風景を知るのは楽しい。
 今日はめずらしく義勇さんも俺と一緒の本をながめている。小さな声で話しながら見る、異国のあれこれ。義勇さんはお父さんがお医者さんだっただけあって、ドイツには少しなじみがあるらしい。
「クリスマスって楽しそうですね」
「もみの木を飾るか。おまえはいい子だからきっとヴァイナハツマンがくる」
「ばい?」
「サンタクロウスのドイツ語だ」
 ロバを連れた白いひげのお爺さん1サンタクロースが赤い服を着るようになったのは、昭和に描かれたコカ・コーラのCM以降。大正時代辺りはドイツ他のファーザークリスマスの格好などが伝わっていますの絵をながめながら、義勇さんはやわらかな声で言う。
「銀座のミーハイムでシュトレンを買って、もみの木に星やベルを飾ろうか。起きたらヴァイナハツマンが玩具を置いてくれてる」
 どこか懐かしげな声。もしかしたらそれは、義勇さんの思い出なのかもしれない。
「義勇さんにもきっと贈り物が置かれますね」
 だって義勇さんはとても優しい人だから。笑う俺に、義勇さんは大人にはこないと苦笑する。
「それなら俺が義勇さんに贈り物をします。なにがいいですか?」
「……おまえ」
 ん? と首をかしげた俺に、義勇さんはくすりと笑い、貰えるならおまえがいいとささやいた。
 叫び声を飲みこんで、恥ずかしいと恨みがましく見上げた俺に、義勇さんは機嫌よく笑う。
 図書館にだって、浪漫は転がっていると知った、そんな冬の休日。

大好き修行 11-30

●お題:唇を奪って得意げに笑う義炭 ※『手袋を買いに行ったら~』シリーズ

 キメツの森は今日も平和です。柱修業を始めた子狐炭治郎の様子を、ちょっと覗いてみましょうか。
 
「はぁ? 水柱の野郎、マジでなんにもしてねぇのかよ」
「逆です! 修業もつけてくれてるし、お家のことも義勇さんがほとんどしてくれてるんですよ?」
 もっとお役に立ちたいのにとしょんぼりする炭治郎に、そういうことじゃなくと音柱様は苦笑い。
「おい、ちょっと耳貸しな」
 
 それは昨日のお話。音柱様のもとで修業中の善逸を訪ねたときのことです。
 今日一日炭治郎はドキドキしながら機会をうかがっているのですが、なかなかうまくいきません。
「さすがは義勇さん。全然隙がないや」
 感心しきり尊敬しつつ、ちょっぴり唸ってしまいます。
「いったいなんの話だ?」
「ひゃあ! 義勇さんいつのまに?」
 突然ひょいと抱き上げられた炭治郎は、顔を真っ赤にしてあわててしまいました。
「悩み事か?」
「そうじゃなくて」
 モジモジしながら炭治郎は、義勇の唇をちらりと見ました。抱っこされているから、義勇のきれいなお顔はすぐ目の前。これは絶好の機会なのでは?
 思い切って炭治郎は、えいっと顔を近づけました。ちょっと突き出した唇を、義勇の唇にチュッと押し当てます。
「やったぁ、義勇さんとキスできた! 義勇さん?」
 カチンと固まってしまった義勇に、炭治郎はキョトンと首をかしげます。
「ど、どこでこんなことを」
「音柱様に大好き同士はキスするって聞きました!」
 義勇には内緒でやってみろと言われたから頑張ってみたのですが、なにか間違っていたのでしょうか。
「それは、まぁ」
「えへへ、俺、いっぱいキスしますね!」
 義勇さんが大好きだから。笑う炭治郎に義勇が浮かべたのは、ちょっぴり困り顔したやさしい笑み。
「義勇さんからもしてくださいね」
 無邪気に笑う炭治郎に義勇からのキスが送られるのは、さて、いつのことでしょう。
 キメツの森は、今日も平和です。

言わぬが花とはいうけれど、言って花咲くこともある 11-30 2作目

●お題:義炭で「その笑顔、むかつく」 ※原作軸、恋人設定

 炭治郎は愛想がいい。いつでも誰にでも笑顔の大盤振る舞いだ。
 美点のひとつだけれど、義勇には少しばかり気に食わない。
 義勇と炭治郎は恋人だ。葛藤はあったが、後悔だけはしてはならないと互いに覚悟を決めた。
 つきあいはおおむねうまくいっている。義勇の稽古を受けるのは炭治郎だけだから同居も始めた。ひとつ屋根の下で暮らし、それなりの頻度で床だってともにする。飯もうまい。屋敷は至るところピカピカだ。
 文句のつけようがない。よくできた恋人である。
 けれどもやっぱり義勇は少々不満だ。炭治郎が誰かに笑いかけたり、あまつさえ肩なんか抱きあってるのを見れば、苛立ちが胸を焼く。
 物言わぬは腹ふくるるわざなり。兼好法師は正しい。炭治郎には言えないまま、日ごとに苛立ちは募っていく。
 義勇にとって災難だったのは、炭治郎の鼻が大層利くことだ。
「言いたいことがあるなら言ってください」
 決意のまなざしで炭治郎は言う。ごまかせそうにない。
「……ムカつく」
「なにがです?」
「おまえの、笑顔」
 サッと青ざめた炭治郎に、義勇の顔からも血の気が失せた。
 失敗した。人が言うほど言葉足らずだとの自覚はなかったが、此度ばかりはやらかした。
「俺のこと嫌いになりました?」
「違う!」
 怒鳴るなり、体は勝手に泣きそうな炭治郎を抱きしめていた。
「……おまえが誰かに笑いかけるのを見ると、腹が立つ」
 ようよう言えば、腕のなかで炭治郎はきょとりと目を見開いた。まろい頬が見る間に桜色に染まる。
「それって……やきもち?」
 沈黙は肯定でしかない。わかっているけれど、認めるのは癪だ。
 くふふとうれしげに笑いだした炭治郎に、思わず眉を寄せる。
「その笑顔、ムカつく」
 言ってまろい頬をかぷりと食んでやったら、炭治郎はますます愛らしく笑った。
 俺にしかその笑顔は見せてくれるなよとは言えないから、せめての意趣返しに、愛い唇をふさいでやった。

ゴートゥーヘブンのきっかけは 12-1

●お題:義勇さんが全力で炭治郎をくすぐっている。 ※現パロ、同棲義炭。

 ワンパターン。言われて義勇は手を止めた。
「エッチのきっかけがいっつも同じな気がするんですけど」
 むぅっとふてくされる炭治郎に、思わず義勇の眉根も寄る。
 言わんとすることはわかるが、この状況で言うか?
 確かにこのところ、行為のきっかけは『お仕置き』な気はする。『ご褒美』もそれなりにあるが、やることは一緒だ。
 ソファに押し倒した体勢のまま、Tシャツの裾をめくり上げかけた手を、さてどうしたらいいものか。
 要は甘い雰囲気がほしいのだろう。義勇としては十分甘いが、炭治郎にとっては違うらしい。
 ふむ、と義勇は考える。つきあって五年目ともなれば、色々と省略しがちなのは否めない。恋人になる前の年月も相まって、熟年夫婦めいてるのは確かだ。お互いまだ若いのに。いやまぁ、義勇は三十路だけれども。
 さて、どうするか。本気で怒っているわけじゃないが『お仕置き』の名目に間違いはない。九割がたはいわゆる営みの合図とはいえ、一割はちゃんとお叱りではあるのだ。なあなあにしたら駄目だろう。
「義勇さん?」
「お仕置きを変えればいいんだな?」
「へ? ひゃっ! ちょ、待っ、うひゃ! ぎ、義勇さ、アハハッ!」
 お望み通り、いつもと違うお仕置きしてやろうじゃないか。
 すました顔で義勇はさわさわと手を動かす。炭治郎の脇腹やら脇の下、身をよじった隙に背中も、こちょこちょと指先を駆使してくすぐりまくる。
「ぎ、ギブ! も、無理……ひゃうんっ! やっ、ダメ!」
 狭いソファの上で笑い転げる炭治郎の声には、時折甘さが交じる。義勇は内心でニンマリ笑った。涙の滲んだ目に見上げられ、ぞくりと背が震えもする。
「言いたいことは?」
「んっ、ふぅ、ご、ごめんな、さい!」
 切れぎれの声に手を止めれば、安堵の吐息を零しつつも炭治郎の手は、義勇の背に甘くすがるから。きっかけはどうでも、行き着く先はいつだって天国だ。
 
 ほら、もう空気だって甘いだろう?

大好き合戦、勝つのはどっち 12-1 2作目

●お題:お互いのいいところをほめあっている義炭 ※キメ学軸。善ねず風味。

 睨み合う兄と恩師を見つめ、禰豆子は手持ち無沙汰に頬杖をつく。
「炭治郎は世界一かわいい」
「義勇さんは古今東西類を見ないほどきれいです!」
 むぅっと互いに眉を寄せ、じとっと目を座らせる様は剣呑だが、交わす言葉は睦言そのものだ。きっとお互いしか目に入っちゃいない。
「なにしてんの、この人たち」
 トイレから戻った善逸にたずねられ、禰豆子は軽く肩をすくめた。。
「自分にはもったいないぐらいだって、お互い譲らないの」
「なにそれ、バカじゃないの?」
「バカだよねぇ」
 そろって見つめる先では、エキサイトしていく恋人たち。
「真面目な良い生徒だ。だがピアスは外せ」
「外せません! 本当は生徒思いのいい先生ですよね」
「料理がプロ並みだ。鮭大根はとくに絶品だと思う。いつもありがとう」
「また作ります。天下一品なマッサージ! あれ商売になりますよ。俺こそいつもありがとうございます」
「おまえにしかやらん。元気な笑顔は癒しだ」
「俺だってやさしい笑顔にホワホワします」
 ぐぬぬとうなれど、双方一歩も引かず。
「頑固者!」
「わからず屋!」
「でも好き~」
 ハモる気の抜けた声に、バッと振り向く顔は見事にシンクロ、気の合うことで。
 挙動不審なふたりは、休日のファミレスだってことも連れがいることも、頭から抜け落ちていたのだろう。
「ド、ドリンク取ってくる!」
 上ずる声で言って席を立つ炭治郎につづき、義勇も無言でグラス片手に立ち上がった。
 そそくさと立ち去るふたりは、まだ秘密のつもりらしい。
「ホント、バカだよねぇ」
 苦笑する声はユニゾン。顔を見合わせ、フハッと吹き出しあう。
「俺なら禰豆子ちゃんの素敵なとこ、もっと言えるよ~」
「……私だって」
 犬も食わない大好き合戦。選手交代で第二ラウンド開始。二組ともに勝敗は今日も引き分け。幸せだからまぁいいやと笑っておしまい。
 勝敗の行方は、きっと今わの際にでも。