800文字で恋をする 51~100

800字を上限にした小説(誤差-50字まで)。メインカプは義炭です。
1P辺り5作を目処にしています。51作目から100作目をこちらに掲載しています。
1から50作目は『800文字で恋をする 1~50』へどうぞ。

お題 幸せにしてあげて テーマお題でイチャイチャさせったー  CP場面設定ガチャ

学び舎アルバム 昼休みの追いかけっこ 12-8

●お題:手のひらを合わせて大きさ比べをしているオバの義炭 ※キメ学軸 宇髄さん視点

「逃げるな!」
「無理です!」
 グラウンドにひびく大声。毎度よくやるよ。
「お、捕まった」
 炭治郎の手が、冨岡の手につかまれたのが見える。そのまま連行かと思いきや、ふたりはなぜだか手のひらを合わせて話してるようだ。
「あれはなにしてるんだ?」
 隣に並んだ煉獄に目を向けることなく、宇髄は笑いながら口を開いた。
「わぁ冨岡先生の手おっきい〜男らしくて素敵ぃ〜とか言ってんじゃね?」
「……竈門少年はそんな話し方はしないんじゃないか?」
「気色ワリィなァ」
「フン。くだらないうえ、学校でなにをしてるんだか」
「あら、微笑ましいじゃないですか」
「うむ、仲良きことは美しきかな。南無」
 いつのまにやら集まってきた同僚に、パチリと目をまばたかせる。宇髄の勝手なアフレコを、疑う者は誰もいやしない。
 なんだかなぁと思わず苦笑してしまう。
 ズラリと窓辺に並んで見つめる先では、まだふたりは話し中。合わせた手はそのままに。
 うれしそうに笑う炭治郎の頬は、きっとほのかな桜色に染まっているんだろう。それを見つめる冨岡の顔は、無表情だけれど、瞳はたとえようもなくやさしい光を帯びているに違いない。
 苦笑したり微笑んだり。鼻を鳴らしてあきれたりしても、誰も別れろとは言い出さないのが、ちょっと笑える。
「アレ、まだバレてねぇつもりかァ?」
「追いかけっこがデート代わりとは、安上がりだな」
「きっと大事なコミュニケーションなのよ」
 いっそ堂々つきあえと言いたくなるほどに、生真面目な秘密の恋人たちは、先生と生徒の顔をしつづける。あふれんばかりの恋心は、まったく隠せちゃいないけれども。
「平和だねぇ」
 派手じゃないが、悪くない。笑って言った宇髄に、反論の声はひとつもない昼休み。

「先公どもなにやってんだ?」
「暇なんじゃね?」
 なんて、生徒たちに言われていることなど、気づかない。
 平和で穏やかな、いつもの風景。

永遠の三秒間 12-9

●お題:軽いキスの後に顔を真っ赤にして見つめあってる義炭。※現パロ。同級生義炭。

 義勇が炭治郎と恋人になってから、そろそろ一カ月になる。義勇のスマホの検索履歴は、このところキスに関することでいっぱいだ。誰かに見られたら軽く死ねる。
 不意打ちでとかムードを作ってとか。ご高説を垂れ流すネットに、義勇は、到底無理難題だと頭を抱える毎日だ。キスしていい? なんて、口にできるとは思えない。
 
 炭治郎はキスしたくないのかな。
 
 帰り道、今日も義勇は考える。不満や不安は顔には出ない。表情筋が死んでると揶揄される義勇は、無表情がデフォだ。鼻が利く炭治郎は、表に出にくい義勇の感情の機微を嗅ぎとってくれるので、あまり問題はない。と、思っている。
 隣を歩く炭治郎は、明るい笑顔でお喋りをつづけている。匂いでわかってくれたらいいのに。キスしたいって気持ちには匂いがないのかな。
 ちらりと浮かんだ不満に、義勇は軽く眉を寄せた。
 炭治郎任せは男らしくない。告白は炭治郎からしてくれた。キスは自分からすべきだろう。
「それでさ、イテッ」
「どうした?」
 突然顔をしかめた炭治郎に慌てて聞けば、唇の端を指差して、ここ痛い、と見せてくる。
「切れてる」
「乾燥してるからかなぁ」
 唇の端にうっすらにじむ血がかわいそうで、義勇は知らず顔を寄せていた。
 舌先でそっと舐めたのに他意はない。幼稚園のころから一緒だから、指先を怪我したときなどに、舐めてやるのはよくあることだ。
「ガサついてる。リップ買っていこう」
「う、え、あ、うん……」
「炭治郎?」
 真っ赤に染まった炭治郎の顔に、怪訝に首をかしげて初めて、自分の行為に義勇は気がついた。たちまちカッと体が熱を帯びる。
「ご、ごめん」
 ブンブンと首を振った炭治郎は、潤んだ目でじっと見上げてくる。夕暮れの帰り道、立ち止まって見つめあったのはたぶん三分にも満たない。
 
 自然に近づいた唇が、触れあったのはきっと、三秒間。たぶん、一生忘れられない、ほんの数秒の出来事。

それがきっと恋なのです 12-9

●お題:黙って近寄ってきた炭治郎に義勇さんが首を傾げている ※キメ学

 義勇さんは俺が近づくとすぐに気づく。
 小さいころはお店にきた義勇さんを驚かせようと、後ろからそっと近づいたりもした。だけどいつだって義勇さんは、俺がおどかす前に振り向くんだ。
 そのたび、なんでわかるのって驚く俺に、義勇さんも首をかしげてた。
 先生になった義勇さんに、高校生になった俺は、そんないたずらをしない。でも、近づくとすぐバレるのは昔と同じだ。
「警戒してんのか。やるな、青ジャー」
「でもさ冨オエェッ!! ってわりと鈍感じゃね?」
「なら伝次郎が嫌われてんだ」
「そうなのかな……」
 伊之助の言葉にへこむ。
 学校では怖いけど、今も昔も義勇さんはやさしい。でも本当は俺のこと苦手なのかも。
 気になるなら試してみろと言われてから、早一週間。連戦連敗。
 これが最後って決めて、廊下を歩く義勇さんに息を殺して近づいた。あと三歩で手が届く。心臓が飛び出そう。
 でも、やっぱり義勇さんは振り向いた。俺に近づかれるのも嫌なのかな。
 悲しくなって俯いたら、急に手を引かれた。
「指導室」
 そっけなく言って、義勇さんは俺の手を引き歩く。ピアスのお説教かな。踏んだり蹴ったりだ。
 
「最近どうしたんだ?」
 指導室に入るなり言った声はどこか心配そうだ。
「俺に近づかれたら嫌ですか?」
 しょんぼり聞けば、なんで? って顔をする。
「だって、近づくとすぐ気がつくから」
「おまえが来るとここが温かくなる。周りが明るくなったり、空気が変わったのを感じる」
 だからすぐにわかると、義勇さんは自分の胸をトンっと指差して、真面目に言う。
「なんで……?」
「さぁ。だが昔からおまえにだけはそうなる」
 俺も義勇さんが近くにいるとすぐに目に入る。どんな人混みのなかでも。だって。
「俺も……義勇さんだけは、キラキラして見えます」
「なんでだか……答え合わせ、するか?」
 
 はいと答えるよりも、目を閉じた。答えはもう、知っていたから。

幸せを願う夜だから 12-10

●お題:義炭で「いっつも一緒だから居ないとそわそわする」 ※原作軸。義炭というよりも実弥。クリスマス話。

 食堂でオマケにコロッケをくれた。
 ツイてたなと店を出た実弥の顔が、すぐにしかめられる。
 道の向こうに炭治郎がいた。
 逃げるに限ると踵を返しかけ気がついた。高慢ちきな同僚の姿がない。
 柱は多忙だ。いなくて当然だが、一揃いな印象のせいで、なんだか落ち着かない。
「あ、不死川さん!」
 駆け寄ってくる炭治郎を、八つ当たりまじりに睨みつける。
「接近禁止」
「はい! これ以上は近づきません!」
 立ち止まり大声で言う炭治郎に、そういうこっちゃねぇと思わず舌打ち。
「アレはどうしたァ」
「アレ?」
「いつも一緒だろうがァ」
「あ、義勇さんですね! 伊黒さんと柱稽古です。俺は甘露寺さんにクリスマスのご馳走を作る手伝いを頼まれまして。西洋の神様のお祝いらしくて、クリスマスケーキ1国内初のクリスマスケーキは明治43年、不二家で発売ってやつを買ってきました。不死川さん、甘いの好きですよね。義勇さんたちも後から来るし、一緒に行きましょう」
「ハイカラなもんは食いたかねェ」
「でもコロッケの匂いしますよ」
 オマケなんぞ貰うんじゃなかったと、また舌打ち。調子が狂う。
「義勇さんも喜びますから、是非!」
「んなわけあるかァ」
 言い捨て歩きだしても、炭治郎は引く気を見せない。
「義勇さんは不死川さんとも仲良くしたいんです。やさしくて情の深い人だから。かわいいとこもいっぱいあるし強いし、この前も」
「うるせぇ! 行きゃいいんだろ!」
 了承しなければ、いつまでも義勇の話をしながらついてきそうだ。思わず怒鳴れば、炭治郎はうれしげに笑う。本当に調子が狂う。
「チッ、いつも一緒にいるのが別々だとソワソワしてくっからなァ」
 小さな独り言に、炭治郎は頬を染め照れている。
 あきれるし苛立つが、今日だけはいいかと肩をすくめた。
 今日はクリスマス。一番大切な弟にも、サンタクロウスとやらが来るといい。今日ぐらいは祝ってやるから、神様どうかと願う。
 歩き出した実弥の目は、微笑んでいた。

のたりのたりとまいりましょうか 12-10 2作目

●お題:待ち合わせの時間より早めに来ている義炭 ※原作軸 無自覚両想い

 稽古のとき、俺は義勇さんと待ちあわせて竹林に行く。先に着いてるのは、いつも義勇さんだ。
 俺も早めに着くよう頑張ってるけど、いまだに先に着いたことがない。
 いくら早く行っても、義勇さんは必ず待ってる。そのたび謝り倒す俺に、義勇さんは感情の読めない顔で「行くぞ」と言うだけだ。
 今度こそと意気込んで、待ち合わせ場所に走った。町中まちなかの時計を確認すれば、約束より三十分も早い。これなら大丈夫。
 そう思ったのに。
「なんでいるんですか!?」
 すでにいた義勇さんに思わず叫べば、義勇さんは眉をひそめて首をかたむけた。
「約束しただろう」
「そうですけど、そうじゃなくて! どれだけ前からいるんですか!?」
 責めたわけじゃないけど、義勇さんは、なんだかバツが悪そうに視線をそらせた。
「尋常小学校のとき、友人との約束に遅れて」
 そこから語られたのは、友達に責められたことや、お姉さんから叱られたこと。狭霧山でもうっかり時間を忘れて飯抜きになったこと。
「おまえを待たせて嫌われるよりいい」
 締めはそんな一言。義勇さんの話し方は、遠回り具合が小さな子に似てる。六太たちで慣れてる俺には微笑ましい。
 思わずクフンと笑みがもれた。
「嫌いませんよ。でも待たせたくないから、俺ももっと早く来ます」
「おまえを待つのは楽しいから、別にいい」
 言って義勇さんはふわりと笑った。どこから来るだろう、どんな顔で現れるだろうと、想像するだけでも楽しいと笑う。
「ズルい。俺だって義勇さんを楽しく待ちたいです」
 相談の結果、少し離れた場所でお互い待機して、時間になったら合図して待ち合わせ場所で逢うことになった。
 
「それなんの意味があんの!?」
 善逸はわめくけど、お互いソワソワしながら時間がくるのを待つのは楽しい。
 遠回りな待ちあわせ、遠回りな義勇さんの話し方。
 がむしゃらに走る日々だから、ちょっとゆっくりなそんな時間が愛おしい。