現パロ

煉義

きっと寂しくて、熱い掌

スマホが鳴ったのは、義勇が寝支度を終えたときだった。 わざわざ呼び出し音を変えずとも、電話の主はわかっている。カレンダーの曜日は火曜。時刻は午後十一時。平日のこんな時刻に電話してくる男は、一人しかいない。 スマホの画面に映る名は確信と違たが...
犬も食わない

青に溺れ、赤に染まる

無惨が初めて彼を見かけたのは、ほんの気まぐれで視察に行った子会社の倉庫でだった。無惨が経営する商社は多くの子会社を抱えているが、無惨自身がそれらを視察するなどめったにない。だというのに、その日にかぎってアポなしで視察をなんて考えたのは、気ま...
煉義

乱舞する深紅のラブシック 2

覚えているのは真っ赤な首輪。小さな金色の鈴がついた。「どうしたの、義一」「あのね、すごくかわいい猫の写真あるの。ホラ!」 幼稚園からの帰り道。笑った義一が指差したほうを見て、お姉ちゃんもニコッと笑い、そしてすぐに眉を曇らせた。「この子、迷子...
にゃんことワンコ

にゃんこなキミと、ワンコなおまえ 5の2

◇ ◇ ◇ ◇ ◇  なんだか眩しい。 ふと浮き上がった意識が訴えるのに従い、杏寿郎は一度、ギュッと眉をしかめた。カーテンの隙間から差し込む朝日ほどには、眼球を刺激してこない光ではある。だが常の朝にはない眩しさは、閉じた瞼を透かして杏寿郎の...
SS~短編

甘くても、苦くても、きっと一番おいしい

元日のテレビ番組は、炭治郎にとってはさして興味のないものばかりだ。もともとテレビを観る習慣はほとんどなくて、茂や六太につきあってアニメを一緒に観るくらいなものだから、タレントにだって詳しくない。 義勇の部屋にいるときはなおさらで、義勇も観る...
にゃんことワンコ

にゃんこなキミと、ワンコなおまえ 5の3

昨夜、意識が途切れる前に義勇が見つめ返した杏寿郎の瞳は、恍惚に蕩けてしたたり落ちてきそうだった。はちみつとラズベリーの色をした杏寿郎の瞳が、とろりと潤む様はやけに甘そうで、舐めたいと思ったのを覚えてる。 姉さんが作るラズベリーのはちみつ漬け...
煉義

乱舞する深紅のラブシック 1

とうとう買ってしまった……。というか、届いてしまった。 宅配の配達員が浮かべる笑みを見返せず、うつむいたまま無言で受け取りにサインする義一の手は、隠しきれぬほど震えていた。ほぼ仕送りに頼っている義一にとっては、分不相応すぎる高額商品だ。なに...
にゃんことワンコ

にゃんこなキミと、ワンコなおまえ 6の1

それは十二月に入ったばかりのとある朝のことだ。着信音とともにスマホに表示された名に、伊黒は思わずスマホを二度見し、ついで眉をひそめた。 画面に映っている名は『冨岡』という名字のみ。フルネームは冨岡義勇。下の名で呼んだことは一度もない。 即座...
にゃんことワンコ

にゃんこなキミと、ワンコなおまえ 6の2

「おや、いらっしゃい。鏑丸さまは健やかにしておいでかな?」 伊黒が店内に足を踏み入れたと同時に、艶やかなボブの髪を揺らせて、店長が振り返った。出逢ってから十二年も経つというのに、この人はいつ見ても変わらないなと、伊黒はわずかに苦笑する。 ニ...
にゃんことワンコ

にゃんこなキミと、ワンコなおまえ はみ出しネタ(呼び方の話)

体力的な問題などを鑑みれば、伊黒が幼稚園や保育園に通うには、問題が山積みだった。結局、杏寿郎と義勇以外には同年代の子らと遊ぶ機会もないままに小学校に入学したのは、しかたのないことかもしれない。 他人に囲まれるよりも、まずは家族の愛情を。そう...