大好きの・・・ 五月雨と君の冷たい手(後) 「さて、これから部活に出なきゃいけないんで、あまり時間がない。手短に済まそうか」 しとしとと降る雨のなか、錆兎は笑ってそう言った。 委員会が終わったと同時に錆兎にうながされ、連れだってやってきたのは、校舎の裏手にある大きな桜の木の下だ。放... 2021.03.08 大好きの・・・煉義義勇受
大好きの・・・ 真白の雲と君との奇跡1 梅雨が明け、七月も半ば近くともなると、照りつける陽射しが暑さを増す。煉獄家ではあまりエアコンを使用しないので、全教室にエアコン完備の学校のほうが、よっぽど過ごしやすい。 とはいえ、一歩外に出てしまえば暑いことに変わりはなく、昼休みに校庭では... 2021.03.10 大好きの・・・煉義義勇受
大好きの・・・ 真白の雲と君との奇跡2 その朝、杏寿郎は目覚まし時計が鳴るより先に、パチリと目を覚ました。 意識が覚醒したとたんに、ぶわりと体中に歓喜がわき上がって、跳ねるように飛び起きた杏寿郎は急いでカーテンを開けた。 いつでもスッキリと目覚める杏寿郎だが、今日は特別だ。勢いよ... 2021.03.12 大好きの・・・煉義義勇受
大好きの・・・ 真白の雲と君との奇跡3 「ただいま戻りました! 義勇、上がってくれ!」 杏寿郎が玄関の引き戸をガラリと開けて言うと、キョロキョロと興味深げに周囲を見回していた義勇は、ピクンと肩を揺らせた。 先ほどまでは表情は乏しくともやわらかい雰囲気だったのに、門をくぐった辺りか... 2021.03.13 大好きの・・・煉義義勇受
大好きの・・・ 真白の雲と君との奇跡4 義勇がやって来た翌日、杏寿郎は初めて義勇に電話した。 とはいえ、中学生にはまだ早いとの煉獄家の教育方針で、杏寿郎はスマホを持っていない。義勇がスマホを持っているのかも知らなかった。保護者に渡された連絡網に書かれた義勇の連絡先は、鱗滝家のもの... 2021.03.14 大好きの・・・煉義義勇受
大好きの・・・ 真白の雲と君との奇跡5 土曜も朝から晴れていた。陽射しはまだ午前中だというのにすでに強く、今日も暑くなるのは間違いない。陽射しだけ見れば絶好の海水浴日和といったところだろう。だが、流れる雲が早い。 出がけに見た天気予報では、早くも台風発生を告げていた。とはいえ、杏... 2021.03.16 大好きの・・・煉義義勇受
大好きの・・・ 真白の雲と君との奇跡6 駅を出て徒歩十分ほどにある目的地、こゆるぎの浜は、海水浴客でにぎわうエリアより北側に広がっている。漁港が近く、浜辺には砂礫が多く岩礁もあるせいか、海水浴客はあまりみかけない。磯遊びや、釣りを楽しむ人向けな浜辺だ。 海水浴のエリアは盛況なよう... 2021.03.16 大好きの・・・煉義義勇受
大好きの・・・ 真白の雲と君との奇跡7 困惑は杏寿郎の胸にどっかりと居座り、どうあがいても消えてくれそうにない。 どうにかなんでもないと笑ってみせたものの、あまり効果はないようだ。元々杏寿郎はごまかしたり嘘をついたりするのは得手ではない。しかも真っ赤に染まった顔も一向に熱が去って... 2021.03.18 大好きの・・・煉義義勇受
大好きの・・・ 真白の雲と君との奇跡8 オー、アーオアオと低く鳴くアオバトの声が、高鳴る波音に紛れて聞こえる。絶え間なく届いてくる海水浴客の喧騒や、ときおり入る水難事故への忠告を呼び掛ける放送は、今この空間、この時が、日常と切り離されたものではないのを知らせるのに、なんだかひどく... 2021.03.19 大好きの・・・煉義義勇受
大好きの・・・ 真白の雲と君との奇跡9 一瞬の、脳髄が焼きつくされるような衝撃。それが冷めやらぬうちに、体は動く。 立ちあがったのは同時だった。 砂に足を取られ、つんのめるように走る。なぜこんなにもこの足は遅いのだろう。意識に追いつかない自身の体に憎悪すら浮かぶ。 千寿郎、千寿... 2021.03.20 大好きの・・・煉義義勇受