義勇受け

犬も食わない

後朝

その夜のことを、無惨は、人生最良の夜と言ってやってもいいと思っている。少なくとも、義勇の安アパートに転がり込んだ後から、朝目覚めるまでの出来事に関しては。 正直に言えば、人生初の自転車の二人乗りや大衆食堂だって、いつか楽しく幸せな思い出とし...
大好きの・・・

真白の雲と君との奇跡9

一瞬の、脳髄が焼きつくされるような衝撃。それが冷めやらぬうちに、体は動く。 立ちあがったのは同時だった。 砂に足を取られ、つんのめるように走る。なぜこんなにもこの足は遅いのだろう。意識に追いつかない自身の体に憎悪すら浮かぶ。  千寿郎、千寿...
犬も食わない

ケセラセラ

体育教師冨岡義勇には、謎が多い。 入学式で壇上に並んだ教師陣のなかで、とにかく目を引く美貌にまず新入生は驚き、その後、そのいでたちが教師としては規格外であることを知り、騒然とする。 私立である学園の生徒数はそれなりで、マンモス校というわけで...
犬も食わない

いと度し難き至高のブルー

好きだのなんだのといった言葉もないまま、無惨と義勇が世間一般で言うところの恋人という関係に落ち着いたのは、もう五年以上も前の初秋のこと。 そのころ義勇は大学一年で、無惨は二十代にしてすでに多くの傘下を抱える総合商社の社長だった。まったく接点...
大好きの・・・

真白の雲と君との奇跡10

ひとしきり千寿郎を抱きしめて泣いたあと、義勇はようやく顔をあげ、杏寿郎に向かって少しバツ悪げに笑ってくれた。 どうしようとうろたえていた千寿郎には悪いが、義勇が微笑んでくれて杏寿郎は胸を撫でおろす。ほんのちょっぴりのヤキモチは、決して口には...
大好きの・・・

真白の雲と君との奇跡(加筆修正済みまとめ読みバージョン)

第1話  梅雨が明け、七月も半ば近くともなると、照りつける陽射しも強くなり暑さが増した。すっかり季節は夏だ。六月にはまだ出番が多かった長袖のシャツやベストも、七月に入ってからは目にするだけで暑さが増す感がある。 公私ともに服装はめっきり夏仕...
大好きの・・・

午睡

「義勇、眠いのか?」 不意にかけられた声はちょっぴり心配そうだ。義勇は重くてたまらないまぶたをどうにか押し上げた。卓袱台の向かい側で見つめてくる杏寿郎は、思ったとおりちょっと心配顔だ。 杏寿郎の部屋にエアコンはなくて、少し古びた扇風機がブー...
大好きの・・・

満天の星と恋の光 1

関東直撃はまぬがれたものの、台風のせいで二日ばかり悪天候がつづいた、その翌日。空は濃い青さを取り戻し、太陽はギラギラと照っている。今日も暑くなりそうだと、窓から差し込む眩しい陽射しに、杏寿郎は掃除機をかける手を止め目を細めた。 八月に入って...
大好きの・・・

満天の星と恋の光 2

眩しいというよりも、いっそ刺し貫いてくると言いたくなるよな強い日差しの下であっても、義勇の白く整った顔は、どこか涼やかな清流を思わせる。それが、ちょっと驚いたようなびっくりまなこであってもだ。 もちろん義勇は人形やアンドロイドではないので、...
大好きの・・・

満天の星と恋の光 3

真っ赤になって絶句している杏寿郎を、義勇と千寿郎がそろって不思議そうに見ていた。見やる視線はちょっと心配そうでもある。 だが、理由など言えるわけもない。杏寿郎自身、なににこれほど動揺しているのは、説明するのは困難だ。母だけが訳知り顔でクスリ...