※年齢差は八歳差か十歳差です。六歳差だとありえない世界になるので💦 小さいころから知ってる幼馴染設定が多いです。
※『学び舎アルバム』はこちらに掲載します。
※2月から文字数を800字から「新書メーカーで4ページ以内」に変更しましたので、TEXTへの掲載としました。
卵が先か鶏が先か
お題:ちょっと前までは好きだと言うと可愛く照れていたのに、慣れてきて軽く流すことを覚えた炭治郎にちょっと不満を感じている義勇さん ※八歳差 幼馴染設定 恋人義炭
炭治郎には、我儘を言える大好きなお兄ちゃんがいる。近所に住む八歳年上の義勇だ。
長男として我慢を常とする炭治郎も、お兄ちゃんの義勇にだけは我儘を言う。「俺のこと一番大好きって言って」と。
義勇は苦笑しつつも、いつでも炭治郎が望む言葉を言ってくれた。今は少し形を変えて継続中である。
「おはようございます!」
「おはよう、世界で一番好きだ」
学校では我慢するから、その代わり必ず一日一回、世界で一番好きって言って。そんな我儘を炭治郎が言ったのは高校入学時。今日も朝からアパートに押しかけた炭治郎に、義勇はお決まりの言葉を口にした。
いつも通りのやり取りだが、今日は少し違った。
「ご飯まだですよね?」
と台所に向かう炭治郎に返されたのは、問いかけへの答えではなく
「慣れすぎじゃないか?」
という言葉だ。
「なにがです?」
「前は俺も好きって照れてただろうが」
憮然と言う義勇に、炭治郎は、いつの話? と首をかしげてしまう。だって義勇の好きは、炭治郎にとっては日常だ。今更恥ずかしいもなにもない。
けれど。
「昔はかわいかったのに」
ぼやくように呟かれた瞬間、ぶわりと炭治郎の目に涙が浮かんだ。
「炭治郎!?」
慌てて袖口で涙を拭ってくれる義勇をキッと睨みつける。
「俺が世界で一番かわいいって言って!」
義勇はポカンとしているけれど、当然の権利だ。だって義勇は小さい炭治郎に言ったから。
『俺には甘えて我儘言っていい』
だから炭治郎は義勇の前でだけは我儘な弟でいた。義勇が一番好きでかわいいと思うのは、俺。それが炭治郎にとっての常識だ。
そして。
「おまえが世界で一番かわいい」
抱きしめてポンポンと背中を叩いてやりながら義勇は言う。
炭治郎の我儘をかなえるのは、義勇にとってもガッツリと刷り込まれている世の理だ。厳然たる事実でもある。
だからお決まりの言葉に新たな一言が付け加えられるのも、その後に小さなキスで炭治郎が俺もと応えるのも、当然の帰結なのだ。
賽は投げられた
お題:一緒に買い物に行った帰りに挑戦した商店街の福引で義勇さんが一等を当てた
※義→(←)炭
年の瀬の商店街で義勇が炭治郎と出くわしたのは偶然だ。福引の補助券が半端になるのもよくあることである。
余ったからやると義勇が差し出した補助券は五枚。炭治郎が持っていたのも五枚。しばらく押し付け合った結果、義勇が回して六等のポケットティッシュなら義勇、五等の使い捨てカイロなら炭治郎が受け取ることになった。
それぞれで引いた玉は六等と五等ばかりだ。高額な景品が当たるわけもない。互いに思っての折衷案である。
なのに。
「大当たり~! 一等一組二名様熱海旅行!」
「回したのは義勇さんです。二名じゃうちは行けません」
「半分はおまえの券だ。二名じゃ俺には多い」
今度は旅行券を押しつけ合うこと三十分。人目もあるし、なにより寒い。
「……一緒に行くか」
根負けしたのは寒がりな義勇のほうだった。折衷案は受け入れられて、旅行券は今、義勇の机の引き出しにしまい込まれている。
生徒とふたりで旅行などもってのほかと、断固として拒否できなかったのは寒さのせいばかりでもない。
二月七日の土曜から一泊二日。炭治郎とふたりきりで迎えることになる、義勇の誕生日。受験シーズンの義勇の多忙さを知りながらも、炭治郎がその日に決めた理由を、義勇はずっと考えている。
期待が半分、他意はないとの諦めが半分。そういえば熱海は新婚旅行のメッカと呼ばれていたななどと考えては、頭を抱える。炭治郎の頬が赤かったのは寒さでだと自分に言い聞かせても
「義勇さんと旅行」
微笑み言った声の幸せなひびきは耳にこだまして、期待が諦めを追い越していく。
あの日転がり出た金色の玉は幸運なのか不運なのか。その日自分はどうすべきか。折衷案はまだ出ない。
けれども賽ならぬ福引の玉はすでに投げ出された。ここから先は、運ではなく自分の意思。
手放したくないのなら、もう覚悟を決めようか。
義勇はスマホを手に取った。
告白するなら旅行より前にすべきだろう。だって、熱海は新婚旅行のメッカなのだから。
永久専用席
お題:公園のベンチでのんびり休憩している義炭
※幼馴染設定
「少し休んでいくか」
場合によってはドキリとする台詞だが、日曜の昼日中、予餞会準備の買い出し中では、色気なんてない。義勇が指差したのも児童公園のベンチだ。炭治郎にも否やはない。
「この公園、懐かしいですね」
幼いころに義勇とよく来た公園だ。遊具やベンチは変わっていない。変わったのは並んでベンチに腰かける、ふたりの距離だけ。
「膝に乗るか?」
昔みたいにとの声に、炭治郎は少し頬を染め唇を尖らせた。
「俺もう高一ですよ?」
ここに来るといつも義勇は、炭治郎を膝に乗せてくれた。家では竹雄や花子が取り合いする義勇の膝を、炭治郎がひとり占めできる場所。
先生と生徒になった今では、手を繋ぐことすらできない。
今日だって、買い出し中に偶然逢わなければ、一緒に買い物なんてできなかっただろう。学校行事の一環だからつきあってくれただけだ。
「それは残念」
義勇の声は平坦で、残念そうなそぶりはない。
「生徒をからかうのやめてくださいよ」
いつもは先生と生徒を強調するくせに。こんな義勇は珍しい。
「約束したのがここだったからな」
何気ない言葉に、炭治郎の頬の赤味が増した。
「しましたね」
「覚えていたか」
「忘れるわけないです」
『大きくなったら義勇さんのお嫁さんになる』
五歳の炭治郎が宣言したのはこのベンチ。義勇の膝の上でだった。
『大きくなっても俺のことが好きだったらお嫁においで』
微笑んでくれた義勇と、小指を絡めてした指切り。義勇が覚えていたなんて。
「そろそろ行くか」
立ち上がる義勇は、いつもと変わらない。
「約束、まだ有効ですか?」
たずねる声は蚊の鳴くような小声になった。だって少し怖い。
「おまえとの約束を破ったことがあるか?」
微笑む顔は昔と変わらずやさしかった。
「ないです!」
今は抱きつくことも手を繋ぐこともできないけど。うれしくて笑った炭治郎に
「予約席だから安心しろ」
笑い返した義勇の笑みは、昼日中の公園には不似合いな色香が漂っていた。
キスの甘さはあなた次第
お題:義炭で「僕も常々あなたに甘い」
※恋人未満 両想い義炭 1/18
冨岡先生は生徒に厳しい。キメ学生にとっては常識だが、異を唱える者もいる。中等部三年の禰豆子を筆頭に、竹雄や花子も、冨岡先生はうちのお兄ちゃんに甘いと宣うのだ。
信じる者は当然いない。朝の校門での「ピアスを外せ!」「外せません!」の攻防を見ていれば疑うのは当然だろう。
当の炭治郎に聞いたなら「俺が冨岡先生に甘いが正解」などと、かえって混乱する答えが返ってくる。
「冨岡先生ったら犬が苦手な癖に、お兄ちゃんが拾った犬の世話して飼い主まで探してくれたし」
「兄ちゃんが初めて作った塩と砂糖間違えた激マズなあんパン、無言で完食してたし」
「どこが甘くないって?」
禰豆子たちが口をそろえて言っても、炭治郎は「でも本当だから」と笑うばかりだ。
みんなわかってないなぁ。昼休みの非常階段で、炭治郎は小さく笑う。冨岡先生の専用席。ほかには誰もいない。
無言で隣に座った炭治郎を、先生はちらりと見ただけだった。
先生が昼ご飯を食べ終わるのを待つこと暫し。先生は、おもむろに炭治郎にキスして立ちあがった。
あぁ、やっぱり。そろそろだと思ってた。
「遅れるなよ」
それだけ言って立ち去る先生に
「やっぱり俺のほうがいつでも冨岡先生に甘いよなぁ」
と、炭治郎はつぶやいた。
冨岡先生のキスはちょっぴりビターだ。だって恋人のキスじゃない。
中等部に入学する前日にしたキスは甘かった。先生と生徒のうちは恋人にはなれない。そう言った義勇とした、約束のキスだ。
高等部に上がった炭治郎は、ときどき先生に唇を奪われる。先生曰く『炭治郎補給』のキス。
将来の恋人である義勇は炭治郎に甘いが、冨岡先生はそうはいかない。ストレスが高じて炭治郎不足が極まると、先生は炭治郎にキスをする。恋人にはしてくれないくせに。
不満を述べる気はない。炭治郎はつれない冨岡先生も大好きだ。
だけどやっぱり早く恋人の甘いキスもしてほしいなぁと、冨岡先生に甘い炭治郎は、先生が触れた唇で苦笑した。
学び舎アルバム 逢えても逢えなくても愛は育っていくのです
お題:「すぐ行くから待ってて」 ※バカップル モブ視点 1/22
キメツ学園高等部一年、竈門炭治郎は、馬鹿がつくほど真面目で真っ正直だ。約束は絶対に守る。
だが『俺もすぐ行くから待ってて』という言葉に限って言えば、守られる確率は概ね半々だ。
「炭治郎、休み時間サッカーやんない? メンバー足りないんだ」
「いいよ。すぐ行くからグラウンドで待ってて」
「え? なんか用あんの?」
「生徒指導室にプリント取りに行ってくる!」
満面の笑みで言って教室から消えた炭治郎に、級友たちは顔を見あわせた。
「……炭治郎は不参加だな」
「生徒指導室じゃ、すぐには戻んないよなぁ」
炭治郎が約束を守らなかった場合、それはいつだって、先に生徒指導室に用があるときだ。
キメ学生のほとんどが近づきたがらない生徒指導室。ルンルンとスキップしそうに向かうのは、炭治郎しかいない。
「炭治郎、今日は十分前には戻るかなぁ」
「いいとこ三分前だろ」
「トミセン、昨日は出張だったもんな」
生徒が恐れるスパルタ教師がいなかった昨日、炭治郎だけは目に見えて消沈していた。
本人たちは隠しているつもりらしいが、いつでもイチャついているとしか言えない学園名物な恋人たち。無自覚な惚気も勘弁願いたいが、いつも元気な炭治郎がしょんぼりとしているのは、どうにも落ち着かない。もはや刷り込みだ。あきらめと言ってもいい。
炭治郎と冨岡先生は、息を吸うようにイチャついてないと死んじゃう生き物なんだよ。
それが生徒たちの共通認識である。
だからまぁ、今日は炭治郎が約束を守れなくても勘弁してやろう。たった一日、されど一日。恋する秘密のバカップルにとっては、一日千秋な思いだったに違いないのだ。
「炭治郎、今ごろトミセンの土産でも食ってんのかな」
「……食われてるのは炭治郎だったりして」
「思いついたことをすぐ口にすんのやめろって言ってんだろぉ!」
昼休みの生徒指導室は立ち入り禁止。馬に蹴られたがる物好きはいない。
だから炭治郎の約束は今日もめでたく破られるのだ。
必要なのは諦めではなく覚悟
お題:「もう逃がしてやらないから」 ※義←炭に見せかけた両想い 1/23
「冨岡先生、見つけた!」
「職員トイレにまで入ってくるな!」
義勇の般若顔などものともせずに、炭治郎はニコニコと近づいてくる。
「覗くなっ」
「小さいときは一緒にお風呂だって入ってたんだから、今更じゃないですか」
ちっとも悪びれない炭治郎に、義勇は深いため息をついた。
「好きです、冨岡先生。俺とおつきあいしてください!」
ますます眉間にしわも寄る。
ムードなんて求めてないが、ジャージのファスナーをあげながら聞く言葉じゃないだろう。いよいよなりふり構わなくなってきた炭治郎にはあきれを通り越して、義勇は少しだけ恐怖さえ覚えてしまう。
「生徒とつきあう気はない」
「卒業するから生徒じゃなくなりますよ」
三学期に入ってから何度も繰り返したやりとりだ。同じ言葉で義勇は断り、同じ言葉で炭治郎はあきらめないと笑う。
休憩時間に義勇を追いかけまわし、好きだと告白してくること一ヶ月。断ればその日は引くのが救い。
「嫌なら、早く次の彼女作ればいいじゃないですか」
めずらしくそんなことを言い出した炭治郎に、義勇はわずかに息を飲む。笑っているが炭治郎の目は真剣だ。
「三学期に入ってから彼女いないですよね、彼女が途切れない冨岡先生?」
事実だ。
高校のころからずっと、告白されれば知らない相手とでもつきあってきた。節操がない女好きと陰口をたたかれようと、理由は誰にも言えない。
「クリスマスに別れた人はめずらしく長かったから、結婚すると思ったのに」
「フラれたんだから仕方ないだろう」
告白も多いが、同じ数だけ義勇はフラれる。交際期間はそれぞれでも理由は大概同じだ。
「断ってるのになんで諦めないんだ」
「だって義勇さんが俺を好きだから」
ケロリと言われ絶句した。
「俺が義勇さんを好きなだけじゃなくて、義勇さんも俺を好きだからです」
有無を言わさぬ言葉は真実。
「もう逃がしてやらないから覚悟決めてください」
最後通牒とともに、炭治郎は小悪魔のように笑った。
やさしい檻で待ってる
お題:体調不良を隠していた炭治郎に義勇さんが怒っている ※両片想い 1/27
笑顔の大盤振る舞いだ。義勇は苦々しく炭治郎を睨む。
炭治郎が今日のような笑顔の日には、義勇の機嫌は地を這う。追いかけっこも今日はなしだ。
朝の校門で、炭治郎の笑顔を見た瞬間に目を見開いた義勇は、それからずっと炭治郎を睨みつけている。
休憩時間のたび炭治郎の教室の前を通っては、無言で炭治郎を睨みつけて去って行く義勇に、まるで監獄を見張る看守のようだと生徒たちが怯えても知ったこっちゃない。
そんな義勇に炭治郎は苦笑するだけだ。
六時限目終了のチャイムが鳴り終わるより早く、義勇は炭治郎の教室の戸を開けた。
ざわつく教室など意に介さず、義勇は「タイムアップだ」と言うなり炭治郎の腕をとった。有無を言わさず引っ張り上げ、教室を出る。
連れ去った先は駐車場だ。
「着くまで寝てろ」
不機嫌な声に炭治郎が苦笑する。素直に目を閉じた炭治郎に、義勇は少しだけ安堵の息をついた。
先ほどまでつかんでいた腕は熱かった。
健康優良児な炭治郎でも体調を崩すことがある。けれど誰にもそれを言わない。
学校を休んで寝込めば母の負担になるからと、平然と我慢する炭治郎は、いつもより笑みが増える。笑ってさえいれば大丈夫と言わんばかりだ。
嘘が下手な癖に、隠し事だけうまいから嫌になる。
腹立たしいのは炭治郎の頑固さよりも、頼られない自分自身。
炭治郎は義勇への想いを隠さない。そのくせ頼ろうとはしないから、どうしようもない。
甘えることを知らない子どもに、どうしたら伝わるのか。
いっそ本当に閉じ込めてやりたい。喜んで一生看守を務めてみせようじゃないか。
恋しい囚人を閉じ込める檻を、せっせと作り上げるぐらいしか今はできないけれど。
静かな寝息を聞きながら、義勇は車を止めるとスマホを手に取った。葵枝の信頼は得ている。今日は金曜。問題はない。
明日には元気になるように、今夜は甘やかしまくってやろう。
閉じ込められたときの予行練習だ、諦めてくれと、義勇はかすかに笑った。