140字SS

突然の雨の日に 背中を見つめることしか出来なかった 両片想い義炭

突然降り出した雨は激しく軒を叩く。雨音と水の匂いに紛れて、あの人が近づいたのに気づけなかった。
無言で差し出された傘。拒む手に押し付けられた傘に礼を言うより早く、あの人の背中が遠ざかっていく。
一緒に、と言えなかった。言えない言葉ばかり胸に積もって、決壊は近いと泣きたくなった。

冨岡さんの家の前で くすくすと笑い合う キメ学義炭

それじゃまた学校でと、スニーカーを履きながら言ったら名を呼ばれた。振り返った頬に温もりと小さなリップ音。呆気に取られて目を瞬かせた。
また明日と笑うから、胸に込み上げる幸せが、クスクスと笑いになって零れた。
今日から、生徒と先生だけでなく、秘密の恋人。

さみしい冬の日に きつく抱き締める 同棲ぎゆたん

たまに怖くなるんです。
降り出した雪を見つめ言いながら、顔だけは笑みを作ろうとするから、堪らなくなって抱き寄せた。
きつく抱き締めれば、縋るように抱き返してくる手が震えている。
二人なのに怖くて、二人だから幸せだ。二人ぼっちの部屋で腕の中の温もりだけが優しかった。

二人きりの室内で ごめんなさいと泣く 両想い義炭

荒い息が落ち着いて、漸く夜なのだと気づいた。夕焼けに染まっていた筈の肌身は、今は青白い月に照らされている。
ごめんなさい。腕の中で子供が泣く。
貴方の人生を俺なんかが奪ってごめんなさい。
馬鹿だなと泣きたくなった。
その言葉はそっくりお前に返そう。もうお前の人生は返してはやれないけれど。

春の陽射しの中で くすくすと笑い合う 同棲ぎゆたん

目の前には届いた宅配便の段ボールと、買ったばかりの食器や生活用品。色違いのお揃いはちょっと気恥ずかしい。
今日から二人の家になる2DKのアパートは春の陽射しが溢れてて、空も祝福してくれてるみたいと笑ったら、緩く抱き締められた。
額をコツリと合わせて笑い合う、今日からはこれが日常。

二人きりの室内で 愛おしさに目を瞑る 同棲ぎゆたん

セミダブルのベッドには枕が1つ。愛し子は俺の腕を枕にあどけない寝顔で静かに眠っている。
この重みこそ幸せの重みなのだと実感する。
いつまでも見つめていたいけれど、見つめていたら泣きそうで。胸に溢れる愛おしさが瞳から零れ落ちぬよう、そっと目を閉じた。
愛しさを一欠けらも逃さぬように。

線香花火をした夜に 幸せでしたと笑う 同棲ぎゆたん

幸せでした。
散る火の花に照らされて言う顔は大人の顔。
内緒と笑ってベランダで火をつけた夏の残りの線香花火はもうすぐ消える。
この10年ずっと幸せでしたと繰り返して、白い物が交じりだした俺の髪に触れた。
これからも幸せにすると言ったら、嬉しそうに破顔した。
(同棲10年目の義炭)

星降る夜に ごめんなさいと泣く 片想い義→炭

血の匂いに酔いそうで、知らず見上げた夜空には降ってきそうな星。煌めきに赫い髪の子供の瞳を思い出した。
お前は今何をしてるだろう。
詮無い事を考えた。同じ様に血に塗れているに決まっていた。
すまないなど口に出せるわけもなく、罪悪感を凌駕して胸に満ちる想いを消す術を、ただ探している。

美しい朝焼けの中で 手首を掴んで抱き寄せた 両片想い義炭

朝焼けに別れの時間が近いことを知る。またただの兄弟弟子の顔をするのだと思ったら、衝動的に立ち上がりかけた子供の手首を掴み引き寄せていた。
容易く胸に落ちてくる身体を抱き締めて、もう一度と囁けば僅かな沈黙の後、頷いて縋ってくる。
いっそ心まで落ちてくればいいのに。

美しい朝焼けの中で 最後の口づけを交わす 両想い義炭

帰りますと、朝焼けの中言う弟弟子に応えを返そうとしたら、何故だか違う言葉が転び出た。
「好きだ」
固まる背中に後悔しても遅い。
もう身体すら明け渡してはくれぬだろうと思ったのに、涙交じりの返答は「本当に?」だった。
抱き寄せて今までの関係に別れを告げるべく、口を塞いだ。

さみしい冬の日に 繋いでいた手を離す 片想い義→炭

生徒指導室まで手を取り歩く。困ったように上目遣いで見るから、溜息を吐き手を放した。
卒業式を過ぎればもうこんなことすら出来ない。
お前にごめんなさいと頭を下げられるたび、心が切り刻まれる気がする。
すまないとは俺の言葉だ。ここにいるのはお前の愛を希う惨めな男でしかないのだから。

静かな雪の朝に ごめんなさいと泣く 仲直りの下手な義炭

ごめんなさいと泣きじゃくる声に胸が引き絞られる。どうしてこう上手くいかないのかと己の口下手を恥じても遅い。
積もる雪が朝の喧騒を吸い込んで、泣き声ばかりが部屋に満ちる。
違うのだ。お前が愛しくて心配なだけなのだと伝えたくて、ぎこちなく頭を撫でた。
未熟でごめん。でも好きだから、笑って?

春の陽射しの中で きつく抱き締める キメ学義←炭

「ぎ……冨岡先生!」
見つけた顔にときめきが湧き上がって駆け寄った。初めて袖を通したブレザー、似合うと言ってくれるだろうか。
躓いて抱き留められたのは不可抗力。
どさくさ紛れにきつく抱き着いたのは、お願い見逃して。
貴方が好きだって、口にするのは我慢するから。

ひまわり畑で 馬鹿だなと笑った 仲直りの下手な義炭

車中での小さな諍いに、あの子は着くなりひまわり畑に駆け込んだ。背丈ほどもある黄色い花で愛しい赫灼は見えない。
「可愛げなくてごめんなさいとあの子は言ってるぞ」
変な裏声でひまわりの精と名乗るそれに、馬鹿だなと笑えばむくれる気配。
馬鹿だな、ごめんなさいは俺の言葉だろう?

星降る夜に あなたが好きですと笑う 明日別れる義炭

お試しでいいですと笑ったから期限を決めた。
明日が最後という夜、星を見に行きませんかと誘われた。
降り注ぐような煌めきを見上げながら、貴方が好きですとお前は笑う。俺を見ずに。
最後だから沢山言っておこうと思って。そう言って唇を震わせる。
最後になんてさせるかと、震える唇は塞いでやった。

真夏の太陽の下で 奪うように唇を重ねる 片想い義←炭

涼しげな彼の蟀谷から、一滴汗が伝い落ちた。
唇を掠めるように流れたそれに目を奪われて、気が付けば舐めとっていた。
凝視する瞳に射抜かれて、泣き出しそうに歪む顔を見られぬよう無理矢理唇を重ねた。
好きですとは言えないくせに、情けを下さいとはよく言ったものだ。
絶望を焼き尽くしてくれ、太陽。

大輪の花火の下で 泣くなと頬に触れる 昔付き合っていた義炭

色鮮やかな光に染まる彼の顔は、昔と変わらず美しい。
泣くなと言い聞かせても勝手に涙は溢れて落ちる。愛され続ける自信がなくて逃げたくせに、身勝手に泣くな。
「泣くな」
響く爆音に紛れる声が優しい。頬に触れた手が余計に涙を誘う。
花火のような恋は終わっても、枯れぬ恋の花が胸の奥で咲いた。

コンビニからの帰り道 最後の告白をする 身体だけの関係の義炭

ゴムがない。駅で逢うなり言った貴方に笑う。
以前は準備万端だったのに。身体でしか繋がれないのにそれすらもう終りが近いらしい。
最後なら許してくれるかな。
コンビニに寄って帰る道すがら「本当は本気で好きなんです」と言ってみた。
噛みつくように奪われた唇が離れたら、俺もと答えが返ってきた。

水族館の大水槽の前で 最後の口づけを交わす キメ学義炭

「この子達は海を知ってるのかな」
回遊魚の大水槽を見上げお前は言う。
大海を知らぬ魚の幸せなんて知らない。卒業し新たな世界を泳ぎだすお前を、この腕に閉じ込める術も。
「卒業したら堂々と恋人ですね」
あまり幸せそうに笑ってくれるな。不穏な胸の内を隠すべく秘密の恋の締め括りにキスをした。

真夏の太陽の下で そっと手を握った 身体だけの関係の義炭

キスはする。手は繋がない。恋人じゃないから。
アプリで出逢った他人の顔で繰り返す逢瀬。先生への想いを捨てたかったのに、現れたのが先生なんて笑い話にもならない。
寝不足の身に真夏の太陽はキツイ。よろけた俺の手を握り大丈夫かと訊く先生に眩暈がした。
恋じゃないなら触れないで。
泣きますよ?

朝焼けでぜんねず(原作軸)

誰もが寝静まるか留守にする深夜。月明かりの下で花を摘み、貴方のお喋りにむぅむぅと相槌を打つ。
優しい人は沢山いて、笑ってくれる人も大勢いる。けれど大好きと言ってくれるのは、貴方と兄だけ。
あぁ、またさよならの朝が来る。朝焼けに煌めく貴方の髪を、タンポポみたいと言って笑えたらいいのに。

レモンスカッシュで義炭(キメ学お付き合い中)

レトロな喫茶店で向かい合う。デートはいつでも少し遠い街で。
コーヒーカップを傾ける貴方に見惚れながらも、苦い思いをするのは秘密だけで十分だろうにとちらり思う。
レモンスカッシュの甘酸っぱさ。それぐらいがきっと丁度いい。
車に戻ったら苦みを消し去る甘酸っぱいキスを俺から仕掛けてみようか。

「君が好きです」でぜんねず(原作軸)

いつも返事を求めない言葉を聞いてた。大好き、結婚したい、可愛いね、全部独り言だ。
私は返事が出来ないから。理由がそれだけなら良かったのだけど。
多分この人は返事を求めていない。それが哀しいのだと気づいて欲しい。
いつか「君が好きです」とお願い目を見て私に言って? 私も好きですと返すから。

契りで義炭(原作軸)

万里一空を契る瞳を見交わして、行くぞの声にはいと答える。
瞳の奥に互いに潜む熱さを押し殺して駆けた。
約束を交わしてしまえばきっと想いに囚われる。今はまだ、その時ではないと分かっていた。
けれどもしも叶うなら「生きて」と小指を絡めて願いたい。
二人行く末を契りあい、見事果たすその日までと。

ねぼすけで義炭(現パロ)

いつも先に起きるのは子供の方。けれどたまには逆転することもある。理由は明白だからちょっとの罪悪感と大いなる幸福感に襲われる朝だ。
腕の中で眠る愛し子はあどけない。数時間前までの嬌艶な顔が嘘のように。
起き抜けに「おはよう、ねぼすけ」と言ったら、今度は可愛い拗ね顔を見せてくれるだろうか。

「おまえだからだ……」で義炭(原作軸)

逢うといつも食事を共にする。遅くなれば泊っていけと言ってくれる。突然の雨には自分の羽織に招き入れてくれた。そんな諸々を友に話せば、まさかあの人がと驚かれた。
おかしいですよね、貴方はこんなにも優しいのに。
首を傾げる子供に「お前だからだ……」と気づいてもらえぬ切なさに胸の内で呟いた。

「おいてかないで」で義炭(原作軸)

一人でいいと思っていた。友を救えず償いも出来ぬ己には、誰かと共に生きる事など許されないと。
胸の奥底で一人は嫌だと泣く幼い自分を、煩い黙れと見ぬふりをして。
その子も貴方、おいてかないでとお前は笑う。
お前の手を取り共に生きたい。願いが溢れて抱き締めた。小さな自分が胸の内で笑った。

静謐な瞳で義炭(原作軸)

彼はいつも静かだ。本当に水のような人だと思う。
深い湖面の如き瞳には感情の色が滅多に乗らず、常に静謐な静けさだけがある。それは寂しさと置き換えてもいい気がした。
だから俺を見つめる瞳の奥にある、燃え滾るような熱情が信じ難かった。
彼の熱に焦がされる俺が、青い瞳に映っていた。

「そんなかわいい顔したってダ、ダメなもんは……ダメだっ!」で義炭(キメ学軸)

擦り寄る教え子に思わず生唾を飲む。匂いで我慢してるのを悟っているんだろう、もう一押しとばかりに膝に乗り上げてくる始末。こちらの気も知らないで不満を口にする若さに辟易し、少しだけ嬉しい。
「そんなかわいい顔したってダ、ダメなもんは……ダメだっ!」
一生傍にいる為だと判れ、この馬鹿者が。

色で義炭(原作軸)

彼を思い出す時、いつも頭に浮かぶのは青。蒼天の色。まだ見ぬ海の色。広く大きなそれらを思う。
瞳は広大な青を湛えているのに、狭い自戒に閉じ籠る彼の人が哀しい。
春の穏やかな空のように、凪いだ水面のように、優しい青が誰かを見つめる日がくればいい。
そう願う俺を見つめる青は優しかった。

幸せになって欲しいで義炭(原作軸)

幸せになって欲しいと貴方は言った。
お前には。お前だけは。
馬鹿な人だなと思う。
そんな言葉で遠ざけようとしたって無駄ですよ? 俺を幸せにするのは貴方だけだと、さっさと認めてくださいよ。
ねぇ、俺だって貴方に幸せになって欲しいんです。
だから二人互いに幸せにしあいましょう、ほら解決でしょ?

雪解けでぜんねず(原作軸・決戦後妄想)

雪解け近い山道は酷くぬかるむ。もうじきここらも花が咲く。
私に花をくれた人はここにはいない。幸せにする自信がないと泣き笑った臆病者。
待ってると。いつまでも待つから迎えに来てと泣いて怒ったのは秋だった。
ねぇ花を下さい、あの日のように。願い歩いた道の先で、笑う貴方が春を連れて立っていた。

私のせいにしてでさびまこ(現パロ)

幼馴染で妹分。だから私は錆兎にとっては守る者。
抱き締めて唇を奪うなんてこと、しちゃいけないって隠してるつもりなんだよね? だから私のせいにしていいよ。
ソファで寛ぐ錆兎にキスして笑ってみせる。
きっかけはあげたよ? だから早く、好きって言葉は錆兎から言って。