※キメ学(未来捏造含む)以外の現パロやその他パロディ設定の義炭です。
※2月以降は文字数制限を800字から「新書メーカーで4頁以内」に変更しましたので、TEXTへの掲載としました。
口移しの媚薬
お題:義勇さんが炭治郎に化粧をほどこしている。 ※現パロ 恋人義炭 1/4
義勇さんの家に行ったら、化粧の匂いがした。
なんだか胸の奥がソワッとする。義勇さんは格好いいから、女の人に言い寄られることがしょっちゅうあるのだ。
「さっきからどうしたんだ?」
「女の人の匂いがします」
怪訝な顔で聞くから素直に答えたら、義勇さんは目に見えてあわてだした。視線が泳いでる。
「まさか浮気?」
「そんなわけあるか。姉だ」
お姉さんがいるのは知ってるけど。
「お姉さんがきただけにしては、後ろめたそうな匂いがしますけど。ていうか、義勇さんまで化粧の匂いする!」
くっついてフンフンと匂いを嗅いだら、やめろって引きはがされた。ひどい。
「……デパートの化粧品売り場に勤めてる」
「義勇さんから匂う理由になってません」
じっと見つめて言えば、義勇さんはあきらめのため息をついた。
「メンズメイクのモデル? 男の人がお化粧するんですか?」
「俺も驚いた」
ぼやきながら卓袱台に並べられたのは俺でも聞いたことのあるブランドの化粧品。
「義兄さんにやれって言ったのに、俺のほうが化粧映えして楽しいと押し切られた」
悪乗りして口紅まで塗られたと憮然とする義勇さんには悪いけど。
「えー! 俺も見たかった!」
義勇さんならきっと壮絶にきれいだったに違いない。
いっぺんだけ! 口紅だけでいいから! ってねだりまくって、根負けした義勇さんが渋々塗ってくれた口紅は、鮮やかな深紅。
「こんなみっともないことさせておいて無言はやめろ」
「や、あの、だって、目の毒」
うん、駄目だ、コレ。きれいすぎて目が潰れそう。だけど目が離せない。
パチリとまばたいた義勇さんが、不意にニヤリと笑った。
「おまえも塗ってみるか?」
「え? 俺は似合いませんよ」
まぁそういうなと迫ってきた義勇さんの手に、口紅はない。
きれいすぎる顔が近づいて、思わず目を閉じたら唇が重ねられた。唇を押し当てるだけの軽いキス。いつもと違う匂いと感触にクラクラする。
「……似合う」
口紅が薄れた唇が、薄く笑った。
冷たくても甘い
お題:炭治郎が義勇さんがとっておいた期間限定アイスを食べてしまった
※現パロ 同棲義炭 1/11
「ごめんなさいってば」
二週間も冷凍庫に入ったままのアイスがあったので食べた。それだけのことなのに、まさか義勇がこんなに怒るとは。
怒鳴ったりはしなかったものの、避けられている。キスどころかスキンシップすらなしでもう三日だ。
同棲して早二年。たかがアイスで義勇がこんなにへそを曲げるなんて思いもしなかった。明後日は炭治郎の誕生日だというのに、何度謝っても義勇は怒ってないと繰り返すばかりで、だけどやっぱり近寄らせてくれない。
「同じの買ってきますから」
「期間限定だ。もう売ってない」
ずいぶん前に販売中止したやつの復刻版。探しているけれど、もうどこにもなかった。言われて罪悪感が増したけれど、炭治郎にしてみればやっぱりたかがアイスだ。
「違うのじゃ駄目ですか?」
「……約束したのは、あれだから」
「約束?」
「四歳の誕生日に買ってやったら、誕生日にまた食べたいと……そのあとすぐ販売中止になった」
さっぱり覚えがない。でも義勇は覚えていたのだ。そんな些細な一言を。罪悪感が増して、でもうれしくもなって。思わず抱きつこうとしたら避けられた。
だけど近づいた一瞬わずかに匂ったのは。
「悲しい匂い嗅がれないようにしてました?」
サッとそらせた顔が答えを示してる。
「アイス勝手に食べたうえに、覚えてなくて……ごめんなさい」
「謝るのは俺だろう。四歳じゃ覚えてなくて当然だ。俺が勝手にガッカリして拗ねていただけだ」
義勇は怒っていなかった。もう売ってないアイスをもう一度探して、でも見つからなくて悲しんでいただけ。約束を守れないと。
バツ悪げな義勇を、そっと抱きしめる。
「でも、ごめんなさい」
義勇から香るのは、やわらかく甘い恋の匂い。
「俺も悪かった」
こつりと額をあわせて小さく笑いあう。
「アイス、買いに行きましょうか」
「そうだな」
いつまでも売っていそうなのを。来年も、再来年も、十年先だって一緒に食べられるように。手を繋いで買いに行こう。
ささやかで甘い約束
お題:義勇さんがベッドから起き上がろうとしたらなぜか炭治郎が隣で寝ていた
※『Hallo! my family』の義炭。恋人になってから少し経ったぐらいのふたり。 1/16
ひとり寝にダブルベッドは広すぎる。ただ眠るだけならば。
三人それぞれ別室で眠る夜は、少し寂しい。小さいベッドに買い替えようかと考えることもある。いまだに義勇が買い替えずにいるのは、人物は変われど傍らにときおり眠る人がいるからだ。
だが昨夜はひとり寝のはずだった。
月末から月初めにかけての財務なんて定時に帰れる日はろくにない。昨夜も午前様で帰れば、そっと覗いた子ども部屋で、炭治郎は禰豆子と添い寝していたはずだ。
なのになぜ、ここにいるのだろう。しかも義勇は抱き枕よろしく炭治郎に抱きついてる。
いったいなにが起きたと、目覚めから少々パニックに陥ってもしかたがない。
ん、と身じろいだ炭治郎が、ゆるりと目を開けた。赫い瞳が義勇の顔を映す。
微笑んだ炭治郎に見惚れ息を飲んだのも束の間、次の瞬間には炭治郎はガバリと起き上がった。
「しまった! 俺まで寝ちゃった!」
温もりが去った腕が寂しい。言えず、義勇も起き上がる。
ついこぼれた嘆息を勘違いしたのだろうか。
「あの、起こそうとしたらベッドに引きずり込まれまして」
少し言いにくそうな炭治郎に、義勇は絶句した。完全に無意識だ。ひとり寝がそんなにこたえていたのだろうか。
「義勇さんの腕のなか安心できるから、俺も眠ちゃいました」
はにかむ炭治郎を抱きしめたい。もう一度腕を伸ばしてしまいたい衝動を義勇はこらえる。
土曜の朝。ちらりと確認した壁時計の針は八時を指している。禰豆子も起きてくるだろう。
しかたないとベッドから降りかけたら。
「あの……夜、また抱っこしてくれますか?」
うつむきモジモジと言う炭治郎に、再び義勇は息を飲む。甘い期待に胸が騒いだ。「あ、禰豆子起きちゃった」
聞こえる禰豆子の声にベッドから出ようとする炭治郎の腕を、義勇はそっとつかんだ。
「約束」
ふわりと触れるだけのキスの後で言えば、炭治郎はうれしげに笑った。
ふたりで寝るベッドは、やはり買い換えられることはなさそうだ。
世界で一番じゃない大好きだからうれしいの
お題:世界一(CHALLENGE No.4) ※現パロ 恋人義炭
俺にとって世界一格好よくてかわいくてきれいな人は義勇さんだけど、義勇さんにとって世界一格好いいと思うのは錆兎らしい。
世界一かわいいのは、順位がつけられないと言う。禰豆子も真菰も、花子たちも、義勇さんの世界一なんだそうな。
世界一きれいな人はお姉さん。義勇さんにしてみれば、まぁ当然だろう。ちなみに同率一位にはうちの母さんが入っている。お愛想でもなさげなのが、なんか複雑。
「じゃ、じゃあ世界一好きなのは?」
全然出てこない俺の名前に、なんだか焦る。
格好良くもかわいくも、きれいでもないけど、義勇さんの恋人は俺だ。さすがにこれは即答で俺の名前が出ると思ったのに、義勇さんは眉を寄せて考え込んでしまった。
「……選べん」
「はぁ?」
「姉さんも錆兎も真菰も、禰豆子たちや鱗滝先生だって同じぐらい好きだ。同率一位が多すぎる」
義勇さんはいたって真面目に言う。
なんだかとんでもなくショックだ。
恋人、なんだよな? 俺。
好きって言われるしかわいいとも言われてる。キスだってするし、その先だってする。好きって匂いで俺を包んでくれるから、ちゃんと想われてるのは知ってるけれど、でも。
「……俺は、一番じゃないんですか?」
「炭治郎は炭治郎だろう?」
キョトンとする義勇さんに、浮かびかけた涙も引っこんだ。
意味わかんないんですけど?
「炭治郎に順番なんてつけられるわけがない」
やっぱり義勇さんはどこまでも真面目に言う。
「えっと、それって世界一より上なんですか? それとも下?」
「上も下もないだろう。炭治郎が特別で大切で愛おしいのは当たり前のことだ」
たとえば世界一と思うものだけ残してすべてが消えると言われて選んでも、空気がなくなれば生きてはいけない。だけど空気を選べばほかにはなにもない。
「そうだな、あえて選ぶなら、おまえが生きてるこの世界が、世界一好きなものかもしれない」
そう言って笑った義勇さんに、俺もと叫んで抱きついたのは言うまでもない。