放出した後の気だるさを感じながら、のろのろと身仕舞いをしていたゾロは、ゴミバケツにネクタイを放り込むサンジを見るとはなしに見やり、もったいねぇと小さく呟いた。
「しょうがねぇだろ? 拭き取れるもん、あれしかなかったんだし、持ち歩くのもごめんだしな」
そのまま蓋に腰掛けて、咥えた煙草に火をつけさも旨そうに深く吸い込むサンジに、軽く肩をすくめてみせる。
「てめぇのだったらもったいなくて捨てらんねぇけどな」
「阿呆」
にやにや笑って馬鹿なことを言うサンジを小突き、ゾロはサンジの膝に腰を下ろした。
「おいっ、てめぇ、ふざけんな。暑苦しいっての。どけっ」
「うるせぇなぁ。椅子の分際で喋んな」
くっくと笑いながら言えば、サンジは不満げにぶつぶつと文句を言ったが、口ほどには嫌がっていないようだ。背を持たせかけるゾロを緩く抱きしめてくる。
優しい仕草と温もりに、ゾロの口からも穏やかな吐息が零れた。
「明るくなってきたな……」
「あー、まぁな。けどまだ、朝っつうにはクソ早ぇだろ。……寝てろよ。待ち合わせ前には起こしてやっから」
「寝ろってんなら悪戯してんじゃねぇよ。くすぐってぇ」
頬にヒゲを擦りつけてくるサンジを、笑いながら押し戻す。
風の通らない路地裏は、夜明け近くなっても涼しくはならなくて、触れ合った体は、吐精の後だけではない倦怠感を煽るけれど。それでも、離れるのはなんだか惜しい気がして。眠りに落ちかけながら、ゾロは抱きしめるサンジの手に自分の手を重ねた。
重くなっていく瞼を堪えて、白み始めた空で存在を薄れさせ始めている月を、ぼんやりと眺める。
知らず笑みが深まるゾロに、サンジはなにを思ったのか。
「ゾロ……」
耳元に落ちた囁きが泣き出しそうに掠れて、サンジの手に力がこもるのを、遠ざかる意識の隅で苦笑する。
またなにか悩んでやがんのかと、呆れ返り。
もう悩むなと抱きしめてやりたい気もしたけれど。
いかんせん眠気には勝てず、つけ上がらせるのも癪に障る。
月を見つめる眼差しはそのままに、ゾロは口には出さずに囁いた。
なぁ、お前から教えてやってくんねぇか。お前の光によく似た髪の、この男に。
勝手に悩んで落ち込むより先に、こうやって抱きしめればそれでいいんだって。
傍にいて欲しいなんて、死んでも言ってやらねぇけど、手放す気はもっとねぇ。
泣こうが怒ろうが、離れてなんかやらねぇから。お前は笑ってここにいろって。
夜が終わりを告げたとしても。
朝はもうすぐそこまできていても。
終末は、気の遠くなるほど未来の出来事。
その頃には少しはお互い素直になれるだろうと、小さく笑い。
今はまだ、口に出せない言葉を、月に向かって囁くだけ。
愛しいその色合いを閉じていく瞼の裏に残して、今はただ、月に囁く。
終