※原作軸、キメ学など、設定はごちゃ混ぜです。
さびまこ
効果は抜群です
お題:目が合った錆兎がニコッと笑ってきたさびまこ ※原作軸生存if 1/5
錆兎はあまり笑わない。男ならばへらへらニヤニヤするなが信条。
おかしくもないのに笑えるかって錆兎は言うけど、笑顔は大事だよ。感情が表に出にくい質の義勇と並んでると威圧感あって怖いって、下の隊士たちは近づいてこないもん。
愛想笑いしろとは言わないけど、もう少し親しみやすくできないもんかな。
本音を言えば、錆兎と義勇を怖がる同僚が私に言伝やらなんやらを頼んでくるのが、鬱陶しい。私を仲介するのが当たり前になってるのは勘弁願いたい。私だって暇じゃないのに。
もちろん、何度かふたりには忠告した。でも、義勇は俺は嫌われてないってこっそり落ち込むし、錆兎は錆兎で男ならばを繰り返すから、最近はあきらめてる。
なのに。
「ねぇ、どうしちゃったの?」
「なにが?」
笑顔で返す錆兎に眩暈がする。
久しぶりにふたりだけで来た洋食屋。錆兎は目があうたびニコッと微笑む。
槍でも降るのかと心配したけど、笑う以外はいつも通り。繰り返されるやわらかな微笑み攻撃に、心臓が爆発しそう。恥ずかしくて顔も上げられなくなってくる。
「真菰、具合でも悪いのか?」
心配げな声に、錆兎のせいだよ! って言い返そうとして気づいた。
「錆兎、目元が赤いよ」
もしかしてと触れた額は
「熱あるじゃない!」
なんともないって言い張る錆兎を無理やり引きずって家に帰った。
「風邪だね」
布団に押し込んで濡らした手拭いを額に乗せてやったら、錆兎は情けなく眉を下げた。笑顔より珍しい。
「すまん。真菰、洋食楽しみにしてたのに」
「それで無理したの?」
「だって真菰がうれしそうだったから」
頼りない声、いつもより幼いしゃべり方。
「錆兎が元気なほうがうれしいよぉ」
頭を撫でたら、うん、って呟いて錆兎は目を閉じた。
どうやら錆兎は熱があると素直になるらしい。微笑まれるよりキュンとしたのは、錆兎には内緒。
でも一番好きなのはいつもの錆兎だから。
早く元気になってねと、手拭い越しの額にそっと唇を落とした。
誓い
お題:うたた寝している相手に自分の上着をかけてあげるさびまこ
※原作軸 not生存if さびまこの出逢いを捏造しています 1/15
突き落とされた川からようよう這い上がった錆兎に笑いかけたのは、小柄な女の子。姉弟子だと名乗る真菰に構うなと邪険に言ったのは、錆兎にしてみれば当然だった。
けれど。
「なんで俺に構うんだ」
「だって仲間だもん」
なぜだか鍛錬中にしか逢うことのない真菰は、どんなに錆兎がつんけんとしても助言をやめようとしない。忠告は常に正しく、錆兎も自分の狭量を認めざるを得なくなった。
つらい鍛錬中、気づけば隣に真菰がいる。いつしか錆兎にとって真菰は、支えともなっていた。
「体調管理も鍛錬だよ。少し寝なよ」
こんな助言にも素直に従えるほどに。
目覚めたとき、目に映ったのは真菰の寝顔だ。あまりの近さに飛び起きた錆兎は、けれど怒鳴ることはできなかった。
「おかあ、さん」
頬を伝う一筋の涙。悲しげな声に息を飲み、錆兎は自分の長着を脱ぐと、そっと真菰にかけた。とたんに目を覚ました真菰に、あわてて背を向ける。
「ごめん、私も寝ちゃった」
自分よりも強い真菰。だけどどんなに強くても、真菰だって女の子なのだ。しかも、とびきりかわいらしい。
「次は寝るなよ?」
初めて気づき、錆兎の声がぶっきらぼうになる。
「次はないんだぁ」
振り向いた錆兎に真菰は笑う。
「新しい子が来たよ。今度は錆兎がその子に教えてあげて。……錆兎は、隊士になってね」
微笑む真菰の姿が、スッと消えた。受け取りそこねて落ちた、錆兎の着物だけ残して。
混乱と焦燥のまま駆け戻った小屋には、見知らぬ男の子が眠っていた。錆兎が山に入る半年ほど前に、最終選別試験で命を落とした女の子。それが真菰だと鱗滝は言う。
手にした着物に、ポトリと涙が落ちた。
「託されました」
鱗滝はポンと錆兎の頭に手を置いただけだった。
昏々と眠る男の子の、青ざめた顔を見る。託され、繋がれた。自分も守らなければ。
もう誰も殺させない。俺が守る。
真菰から託された思いは、俺が繋ぐ。
ギュッと握りしめた着物から、かすかに花の匂いがした。
オレンジ
お題:遊び疲れて一緒に爆睡しているさびまこ(お題を盛大に外しました💦)※現パロ 年齢操作 『年年歳歳シリーズ』のさびまこです。2/2
大人顔負けの胆力に機転、達者な口調。それでも錆兎と真菰は年齢的にはまだ幼児だ。ふたりが一足飛びに大人になろうとする理由は、弟弟子の義勇にほかならない。
中学生の義勇の世話を、保育園児の錆兎と真菰はせっせと焼く。
姉を亡くし悲しすぎて心が迷子になってしまった義勇を、心ない人は馬鹿にするし、ときに悪意をぶつけもする。
守ってやらなくちゃ。悲しくてもつらくても泣くな。誓いあった約束を胸に、錆兎と真菰はせっせと義勇を構う。
そんな毎日に変化がおとずれたのは、まだ肌寒い三月のこと。
心どころか義勇本人が迷子になったと、泡を食って迎えに行った先で出逢ったのは、小学生の炭治郎。
「義勇、疲れただろ」
「早く乾かして寝ようねぇ」
炭治郎一家と一緒に行った墓参りで、ふたりは思う以上に気を張りつめていたんだろう。義勇の世話を焼こうとしても、気がつくとまぶたが落ちかける。
食事や風呂まではどうにか頑張っていたけれど、義勇の髪を乾かしてやりながらも、うとうととしてしまってしかたがない。
真菰がふと目を覚ましたときには、ふたりは布団にいた。
「義勇?」
豆電球のオレンジの光のなかで、義勇と目があった。
うなされる義勇を錆兎と真菰で挟んで眠ることは多い。だけど今日は違っていた。
真菰を真ん中に、義勇はふたりを守るように抱えている。
ひとつまばたきした義勇が、ポンポンとお腹を軽く叩いてくれた。もぞりと錆兎が身じろいで、ポンポンと叩く手は真菰と錆兎を交互に行き来する。
ぼやけた視線を、真菰は錆兎に向けた。
やっぱり目を覚ましていた錆兎とふにゃりと笑いあう。
義勇の心を動かしてくれたのは炭治郎だけど、まだ義勇はここにいる。ふたりをそっと守ってくれる、お兄ちゃんで弟な義勇。
ポン、ポン、ポン。ゆったりとしたリズムで義勇の手はふたりを眠りにいざなう。
オレンジのやわらかな光の下、今はまだここにいてねと願いながら、真菰と錆兎はまた眠りに落ちていった。
善ねず
大人ごっこ
お題:嘔吐する善逸を禰豆子が介抱している。 ※原作軸 最終決戦後 善逸の飲酒シーンがありますが、未成年の飲酒禁止は大正11年4月1日からなので、ご了承ください。
ふたりで遊びに行こうよ。
善逸に誘われてやってきた、浅草六区。ミルクホールに活動写真。夕食はカフェーで洋食。大人の逢引みたいでドキドキする。
「お酒飲んでみる?」
いたずらっぽく笑う善逸にうなずいた。酒など飲んだことがないが、大人な一日の締めくくりにはいいだろう。
店に入った途端に後悔するなんてちっとも思わなかった。
「お、シャンな嬢ちゃんがきたな」
「おごるから一杯やんなよ」
禰豆子の肩を抱こうとする男の手をはたき落として善逸が怒鳴った。
「禰豆子ちゃんに触るな!」
「あぁ? ガキが口出すんじゃねぇよ」
喧嘩になる。あわてて善逸の袖を引いたが、ぐるりと取り囲まれて逃げられそうにない。
「お客さん、喧嘩は困りますよ!」
店員の注意にホッとしたのも束の間。
「嬢ちゃんの代わりに俺らの酒を飲めたら放してやるよ。飲めなきゃ嬢ちゃんは俺らと飲む」
勝手に決めないでと怒鳴るより先に、善逸はグラスを手にしていた。
結局、善逸は都合九杯もの酒を飲まされた。そして今、路地裏にへたり込んで吐き続けている。
「善逸さん、大丈夫?」
「らいじょぶ。禰豆子ちゃん、汚えるから離えてて」
「馬鹿! そんなのどうでもいいの!」
真っ青な顔をして立ちあがれもしないくせに、禰豆子を気遣う。善逸はいつもそうだ。
「頼ってくれなきゃ、ずっと一緒になんていられないでしょ」
守られるだけはごめんだ。鳥籠の鳥のように愛でられる気はない。
「ね、苦しいときは頼って?」
背中をさすりながら言えば、善逸はちょっと泣きそうな顔で「うん」と笑った。
「今度は花畑に行こうね。またお花摘んでね」
肩にもたれかかった善逸からは返事がない。見ればすぅすぅと寝息を立てている。子どもみたいな寝顔だ。
大人びた逢引なんてまだまだ自分たちには早いらしい。接吻なんてまだまだ先の話。
でもいつか。
汚れた口元を拭ってやりながら、この唇に触れるのは、お酒の匂いよりも花の匂いの中でがいいなと、禰豆子は笑った。
小さくて大きな約束
お題:笑顔でお別れするハズが2人とも耐えきれずにボロボロ泣いてしまっている ※原作軸 最終決戦後 死にネタ
日が暮れた。月が明るい。
「いつまでだって小っちゃくて、そんな年だなんて思わないよなぁ」
月明りのなかで善逸は笑っている。ポロポロと涙をこぼしながら。それでも善逸は懸命に笑っていた。
善逸は泣き声だってやかましい。こんなふうに静かに笑いながら泣くのを、禰豆子は初めて見た。
「いっぱい頑張ってくれたよね」
禰豆子も笑う。やっぱり涙はこぼれ落ちたけれど。
善逸の手の上で、チュン太郎は静かに目を閉じている。ずっと善逸から離れずにいた小さな雀。
人との意思疎通が容易な鴉たちと違って、雀のチュン太郎が役目を果たすのは大変だったろう。それでも健気な雀は必死に善逸を助けて、ずっと傍にいてくれた。つらいときも、幸せなときも。
チュン太郎の元気がないんだ、ごめんねと、初めて禰豆子との約束を破った善逸は青ざめていた。
雀なんて診たことがないと困惑げに診察してくれたアオイは、寿命だろうと痛ましげに言った。鴉よりも雀の寿命はずっと短いらしい。
もっとずっと年寄りなはずの寛三郎より先に、チュン太郎が逝くなんて考えたこともなかった。
「ごめんね、禰豆子ちゃん。送ってくよ」
善逸はそんなことを言って笑う。チュン太郎をそっと手に包んだままで。
「一緒にいる」
「駄目だよ、俺が炭治郎に叱られちゃう」
泣きながら笑って言うから、禰豆子も泣きながら頬をふくらませた。
「お兄ちゃんなら、一緒にいてやれって言うもん。それに」
「それに?」
「チュン太郎だってそう言ってたよ」
息絶える前に善逸と禰豆子を見上げたチュン太郎は、小さくチュンッと鳴いた。笑っているような声だった。
チュン太郎の言葉は禰豆子たちにはわからない。だけど確かに禰豆子は聞いたのだ。
『幸せにね』
チュン太郎は確かにそう言った。だから禰豆子は泣きながら善逸を抱きしめた。
「一緒にいるから」
「……うん」
とうとう顔をぐしゃぐしゃにして、善逸は声をあげて泣いた。
小さな雀の顔が、笑っているように見えた。