Please cry baby

 卒業式後に義勇に告白したとき、炭治郎の顔はまるで決闘でも申し込むかのようだった。
 俺も好きだと言われたときの顔はといえば、鳩が豆鉄砲を食ったようで、すぐにグシャグシャに泣き崩れた。涙だけでなく鼻水まで大盤振る舞いの大号泣だ。めったに着られることのない義勇のスーツは、炭治郎の涙と鼻水でぐっしょりと濡れていた。
 初めてキスしたときも、初めて義勇のベッドで眠った夜も、なんなら目覚めた翌朝だって、炭治郎はやっぱり泣いた。
 どれもこれも、今度こそ目が覚めて夢だったと思い知るんじゃないかと不安で、現実だとわかればどうにもこうにも涙が止められなくなる。恋人になってしばらくは、そんな具合だった。
 どうにか泣かないようになるまで、毎度胸元をびしょ濡れにしながら炭治郎を抱きしめ、よしよしとあやすように背を叩いてくれていた義勇には、感謝しかない。自分の恋心を疑われているも同然だというのに、怒りもせずに現実だちゃんと好きだと、辛抱強く何度も繰り返し炭治郎に言ってくれたのだから。
 だから、次こそは泣くものかと、炭治郎は固く決意していたのだ。本当に。今度こそ絶対と。

「ホラ、もう泣くな」
「ご、ごめ、なさっ。う、うれし、くてっ」
 わぁーんとまた声をあげてしがみつく炭治郎に、義勇はいつものように小さく苦笑して、よしよしと背を優しく叩いてくれる。
 そろそろ一緒に暮らそうか。義勇がそう言ってくれたなら絶対に、待ちくたびれましたよと笑って答えるはずだったのに。今度もやっぱり炭治郎は泣いて、義勇の胸元はびしょびしょだ。
「ホントは、も、もっと、カッコよく決め……うぅっ!」
「こんなふうに泣かれるほうがうれしいぞ?」
「な、なんでぇ? カッコ、悪い、のにっ」
 はらはらと静かに涙をこぼして微笑むとかなら、絵にもなるだろうけれども。炭治郎はいつだって大泣きしてしまう。なのにそのほうがいいとは、なんだかちょっと聞き捨てならない。
 ドS? え? 義勇さんって実はサドっ気でもあるのか? と、涙がとめられないままの目で見上げた義勇の顔は、なんとはなしうれしそうだ。え? やっぱりドS?
「おまえは自分のことはなんでも我慢するからな。こういうときは、気持ちをなにひとつ隠さずいてくれるから、うれしい」
 ふわりと微笑み、そんなことを言うから、炭治郎は盛大に鼻をすすって、またポロポロ涙をこぼした。
「ズルいぃ! ぎっ、ぎゆ、さんばっかり、カッコ、いいぃ!」
 なんで!? とギョッとした顔をしながらも、義勇は抱きしめる腕をほどかないでくれるので。
 今度も、きっとこれからも、大事な一言に炭治郎はわんわん泣いて、カッコつけない素直な涙で義勇の胸元はびしょ濡れになる。きっと、ずっと、いつまでも。