似非チャイナファンタジー

水天の如し

水天の如し 一 ◇少年、運命と対峙すの段◇

忙しなく息を吐きながら、炭治郎は必死に走る。だが、積もった雪に足を取られ思ったようには走れず、速度は平地を歩むのと大差はない。 空を覆う雲は厚く、また雪が降ってきそうだ。ぐっしょりと濡れた衣服が、炭治郎の体温を奪っていく。けれども足を止める...
水天の如し

水天の如し 二 ◇少年、仰天すること甚だしの段◇

ともあれ、深い話は場所を移してからだ。息を飲み絶句した炭治郎に、そう切り出してきたのは錆兎である。「今は雲のおかげで日が差さないが、太陽が顔を出したらまずい」「なんでですか? また雪が降るよりいいと思うけど」 雪は今はやんでいる。とはいえど...
水天の如し

水天の如し 三 ◇少年、運命を切り裂く決意をすの段◇

さて、衝撃から覚めてしまえば、炭治郎の脳裏にはまた悩みが湧いた。 食事の支度をしている二人に、なんと声をかければよいのやら。少々ためらいを覚えないでもない。手伝うこともなくなってしまえば、己が立場を否が応でも考えざるを得なかった。 二人から...
水天の如し

水天の如し 四 ◇少年、旅立つを目指し鍛錬に励むの段◇

抜けるような高い青空に、白い雲が流れていく。雲の流れは早い。 それにふと視線を奪われた炭治郎は、木剣を振る手を止めると、額を伝った汗をグイッと手の甲で拭いた。乱れかけていた呼吸に気づき、深く息を吐く。 『すべての基本は調息(呼吸)だ。息は吸...
水天の如し

水天の如し 五 ◇少年、宿縁の強きを願うの段◇

炭治郎が師事している鱗滝老師ラオシーの仙洞せんとうは、狭霧山の頂上付近にある。地上からはるかに遠い仙洞付近の空気は薄く、ときおり雲がかかり、伸ばした手の先が見えないほど白く霞みがかることもあるぐらいだ。 初めて来たときに、ひょうたんに入れら...
水天の如し

水天の如し 六 ◇少年、天秤秤に己が命を乗せる一歩を踏み出すの段◇

「とらえたっ!」 気合一閃、炭治郎が振りかぶった木剣は、だが、カァンと高い音を立ててあっけなく弾き飛ばされた。「甘い! 剣は決して手放すな! 呼吸が乱れているぞ!」 たちまち飛んでくる叱責は、腹への鋭い一撃とともにだった。避ける間などまるで...
シリーズ・連載もの

水天の如し 七 ◇少年、苦い邂逅を乗り越え進むの段◇

炭治郎が洞窟に足を踏み入れたとたん、突然に周囲は暗闇に包まれた。とっさに振り返り見た入り口も闇に包まれて、並び立っていたはずの鱗滝たちの姿などどこにも見えない。前も後ろも真っ暗な闇だけがあった。 一瞬ヒヤリと背が震えたけれども、慌てふためく...
水天の如し

水天の如し 八 ◇少年、大いに悩みほのかに恥じるの段◇

洞窟はふたたび闇が続いていた。とはいえ、先のような右も左もわからない真の闇ではない。 うっすら明るさをもたらしている光は、苔だろうか。金緑色のほのかな光は、いかにも淡く頼りない。だが、それでも視界を取り戻すには充分だ。 それでも暗いことに変...
水天の如し

水天の如し 九 ◇少年、大いなる決意と旅立ちの時の段◇

元宵節げんしょうせつまであと二日。明日にはさっそく出立するという晩だ。 炭治郎は、これでもかというほどの料理を卓に乗せるつもりだったが、残念ながら自力では果たせそうになかった。理由は至極単純である。料理をしている途中で、とうとう立っていられ...
シリーズ・連載もの

水天の如し 第一章

◇少年、運命と対峙すの段◇  忙しなく息を吐きながら、炭治郎は必死に走る。だが、積もった雪に足を取られ思ったようには走れず、速度は平地を歩むのと大差はない。 空を覆う雲は厚く、また雪が降ってきそうだ。ぐっしょりと濡れた衣服が、炭治郎の体温を...