TABOO

「……おめでと、義母さん」
「やっと帰ってきたと思ったら、父親の通夜で第一声がそれか」
「しょうがねぇだろ、出張だったんだし。喪服着てやってるだけでも感謝してほしいね」

 義父の遺影をちらりと横目で見ながら言えば、小さく笑う気配。

「どっちが感謝してるんだか……本当の父親じゃないとはいえ伯父なんだし、少しは哀しんでやりゃいいのに」
「葬儀じゃ喪主らしく、精々沈痛な面持ちしてやるさ。第一、こいつだって自分が死んで泣く奴がいるなんて、思っちゃいねぇよ。カッ! 祝杯挙げる奴なら山のようにいるだろうけどな」
「自分が一番喜んでるくせに……あんまり可哀想なこと言ってやんなよ」

 苦笑する同い年の義母の顔に、蝋燭の炎が影を落とす。
 とうに人気の絶えた座敷を照らすのは、祭壇に添えられた蝋燭の炎だけ。通夜振舞いの名残りか、抹香に混じり酒の臭いが漂っている室内に、少しばかり辟易としながら義母の向かいに腰を下ろす。
 故人を偲ぶ席ではあるが、きっと参列者の本心は祝宴でしかなかったろうと思うと、俺も義母に倣って苦笑するしかない。

 滅多に人前に出るのを許されなかったというのに、喪主である俺の代わりに見慣れぬ多数の人間の相手から葬儀の手配まで、一切の責任を背負うことになったわけだから、さぞや疲れていることだろう。だが、疲れの色など決して見せない。そんな気丈な義母が、俺は好きだった。

 義父の再婚相手として初めて紹介されたその時に、初めて、人は瞳を合わせただけで恋に落ちることがあるのだと、知った。見交わす視線だけで、互いの心を繋ぎあわせることができる恋も、あるのだと……。

 ゆらゆらと揺れる蝋燭の炎に照らされ、けぶる白皙。僅かに伏せた目元に落ちる睫の影。紅を差さぬ唇は微かに弧を描き微笑んでいる。
 やけに色っぽく見えるのは、喪服の所為だろうか。性交渉なんて皆無の結婚生活でも、未亡人独特の禁欲的な艶めかしさは有効らしい。
 あの男の死をちょっとは哀しんでるんだろうかと思うと、少し腹立たしいが、ゆっくりと見上げてきた瞳に哀しみの色はなかった。

「ルイさん……」

 呼ぶ声に、常にはない艶が籠る。

「……まだ、そんな呼び方するんだ?」
「自分だって義母さんって呼んだくせに、なに言ってんだか」

 小さく笑う。口許に持っていった指には、まだ、あの男がつけた『首輪』
が光っている。
 苛立ちが湧いた瞬間に、身体は動いていた。

「ルイさん……っ!」
「もう、そんな呼び方する必要ねぇだろ……妖一」

 耳元で囁いてやれば、首を竦めて瞳をきゅっと閉じる。
 初々しい反応に、知らず笑みが浮かんだ。

「ね……ちゃんと呼んで。聞いてる奴なんて、もういないから。な?」
「……ルイ」

 ほんの少し躊躇いをみせた後で、小さく呼ぶ声。羞じらうような、それでいて、響きを舌先で味わっているかのような……。

 次の瞬間には乱暴に引き寄せ、唇を奪っていた。
 腕のなかに落ちた義母の四肢は強張りをみせたが、抗いはしなかった。
 迷わず舌を潜り込ませ絡めれば、おずおずと応えだす。熱い舌だけでなく、口内を隈無く犯してやった後、僅かに唇を離したら、また小さく吐息のように呟いた。

「ルイ……」

 男なら誰だって、我慢できるわけがない。する気も、なかった。

 服を脱がすのももどかしく、ネクタイすら外してやることのないまま。性急に晒けださせた肌の白さと、喪服の漆黒とのコントラストに、興奮した。
 荒いでいく息遣いや殺しようのない零れる喘ぎが恥ずかしいのか、しきりに逃げを打つ四肢を押さえつけ、蝋燭の炎の陰影が落ちる肌に手を滑らせれば、むずがるように首を振る。ぱさぱさと畳の上で音を立てて散る金色の髪に、思わず見惚れる。

「あ…やぁ……っ!」

 指先が胸の小さな突起を掠めた瞬間、思わずといった風に上がった声に、慌てて口を塞いだ手。指先にはまだ、細い銀の『首輪』
 華奢な指先に、それは似合っていないとは言えないけれど。

「……っ!!」

 齧りつくように指先を口に含み、歯で銀の輪を抜き去った。
 吐き捨てれば、少し呆然とした瞳がその軌跡を追う。

「代わり、な?」

 にやりと笑いかけ、指に残る跡にきつく歯を立ててやれば、息を飲んで痛みを堪えてる。ついでにそのまま舌を絡めて、ちょっとした悪戯。
 ひゅっと息を吸い込む音がして、顔を真っ赤に染める様が可愛い。
「やっ…やめ……」
「…ん?」
 涙が滲みだした瞳の愛らしさが、男の嗜虐心を煽るなんて、気づいてもないだろう。
 濡れた指先を掲げさせ、傷跡を見せつけるようにしてやれば、小さく吐息して呟く。
「……こんなんじゃ、すぐ消えちまう……」
 なんだかその声も瞳も残念そうで。
「消えそうになったら何度だってつけてやるよ」

 好きなだけ。どこにでも。

 囁けばまた、白い頬に朱を散らす。口吻けに応える舌のたどたどしさや、この反応の初々しさは、義母がまだ男を知らぬままだという証明のように思えて、胸に歓喜が溢れる。

 なかば金で買うようにして手に入れた若い花嫁を、一度も抱けずにお陀仏しちまったのは哀れだが、義父にかける同情は欠片もない。60も年の離れた爺が、こいつに惚れたのがそもそもの間違いだ。
 この白く華奢な肢体を味わえぬ、自分へのコンプレックスからかは知らないが――高齢なばかりでなく、義父が元々不能だったのは公然の秘密だ――異常なまでの独占欲でこいつを束縛し続けた男に、誰が同情などできるものか。
 元々猜疑心の塊のような男だったが、義母に対するそれは、まさしく異常としか言えなかった。
 強引な政略結婚の末に手に入れた妻に一切の自由を与えず、家中に監視カメラと盗聴機まで仕掛け、外出することすら殆んど許さずに。そうまでしても信用できないと、貞節を疑る言葉ばかり義母に投げ掛け続け。見かねて義母を庇った俺を左遷同然に近県の支社へと遠ざけたのは、結婚後間もなくだった。

 それは、俺にとっては漸く男の監視下から逃れるまたとない好機になったが、義母にしてみれば、真綿で首を絞められるような日々だったろう。時折俺が顔を見せるたび疑いを露に男が義母に吐き捨てる、辱めるためだけの暴言にも、義母は凛と前を向き続けていたが、それでも、男の罪が薄れるわけもない。

「あ……ル、イ……っ」

 宣言を証明するように首筋をそっと噛めば、呼ぶ声に切なげな吐息が混じる。
 漆黒の布地に未だ包まれた下肢が、小さく震えている。肌けられた白い胸元は、炎の色を映しただけではない朱を帯びて、微かに粟立ち震えていた。
 触れるだけで、こんなにもこの身体は歓喜に打ち震えているというのに。花開かされる日を待ち侘びていただろうに。

 蕾のまま絶えさせようとするなど、許されるわけがない。

「……どこ、見てんだ」
 遺影を睨みつけていたのに気づいたか、指先を俺の髪に絡め拗ねたように言う様が愛しい。
「悪い。あいつが悔しそうにしてやがるから、つい、な」
 苦笑混じりに言うと、義母の瞳も遺影に向けられ、唇が薄く微笑んだ。互いの涎液に濡れた唇はやけに煽情的で、下腹にこもる熱がますます疼く。
 言葉はないまま、義母は夫だった男の顔を一瞥しただけで、唇に浮かぶ笑みのほかにはなんの感慨も見せることなく、細い指で耳を撫でてくる。初な生娘らしからぬ仕草は、けれど、その蠱惑な笑みにはよく似合っていた。
 貞淑な妻の顔しか知らぬ男は、義母のこんな笑みを見たことがなかっただろう。
 あの男だけじゃない。俺以外には誰も知らない筈だ。
 妖艶な笑み。男を誘う仕草。そして、穢れを知らぬ新雪のような、白い肌。
 総てが俺の前でだけ曝け出されるものだと思うと、喩えようのない優越感と、眩暈に近い陶酔が胸に湧き上がる。
「もう、誰も見てないし、聞いてないんだろ……?」
 囁きは甘く濡れて、僅かに期待が滲んでいる。ずっと待っていたのだと、言葉にならぬまま囁きかけてくる瞳。
 たまらず口吻け、昂る自身を布地越しに義母のそれへと擦りつけた。忽ち笑みが消え、白い頬を真っ赤に染めるから、なんだかもっと苛めてみたくなる。
「俺以外には、誰も、な……。だから、好きなだけ乱れていいぜ」
 唇を胸元に這わせながら囁いてやれば、首を竦め唇を噛む。たった今見せた笑みとは裏腹に、慣れぬ快感に戸惑う様は愛らしく、どちらも義母の偽らぬ顔だと思えばまた愛しい。
 綺麗に浮き上がった鎖骨に、軽く歯を立てた。外してやることを忘れたネクタイが少し邪魔だ。だが、華奢な首にまとわりついた細い漆黒の布地は、まるで義母を繋ぎとめる鎖のようにも見え、外してしまうのは少し惜しい気もする。
 義母に残された『首輪』という名の結婚指輪は、俺が取り除いた。もはや自由の身となった義母に、枷などありはしないのだが……だからこそ、その首にまとわりつく布地を、惜しいと思ってしまう。

 歪んだ独占欲に、知らず唇が笑みを作った。

 ネクタイを外してやる代わりにベルトに手をかける。どうしても性急になる手つきが、我ながら覚えたてのガキのようだと呆れるが、逸る心は抑えられなかった。
 ボトムを下着ごと引きずり下ろしてやれば、乱暴な手つきに怯えたか、義母が小さく声を上げて震える。総て脱がせてやることすらもどかしく、左足首に黒い布地を纏わりつかせたまま、義母の白く見目良い脚を押し開かせた。

 淡い金色の茂みから勃ち上がりかけている肉芯すら、充血の兆しを帯びながらも清らかに白い、義母の裸体。
 ごくりと咽喉が鳴ったのに気づいたか、恥ずかしそうに顔を背け、義母はそっと瞳を閉じた。
 むしゃぶりつきたくなる衝動を辛うじて堪え、ゆっくりと内股に唇を落とす。小刻みに震えていた脚が、びくりと跳ね上がった。顕著な反応に、満足感と猜疑が同時に沸き起こる。
「これ、あいつに触らせるくらいはさせてやってた? それとも、自分で慰めてた? ……こんな風に」
 唇を腿に這わせたまま、震える欲望を指先でなぞれば、激しく頭を振る。

「一度も? そのわりには感度いいけど……本当のこと言ってみな。俺しか聞いてないって言っただろ?」
「させるわけ、ねぇ…だろ……っ」
「じゃあ、自分でしてたんだ。監視カメラだらけだったのに、どこで?」
 掌で包み込んでやった瞬間、小さくあがる悲鳴。この反応だけでも慣れていないことは十分判るけれど、止められない。
 常に気丈な態度を崩さずにいた義母が、些細な愛撫にすら翻弄されて今にも泣きじゃくりそうになっている様は、俺の中の嗜虐心を煽るには十分すぎた。
「ほら、言って……どこでしてた? 言えないってことは、やっぱりあいつにこんなことさせてたってことか?」
「違……っ」
「なら言えるだろ? ちゃんと言ってみな……妖一」
「風呂、とか……あっ、あ…やぁ……っ!」
 やわやわと強弱をつけながら握りつつ言うと、唇を戦慄かせながらも漸く口にする。
 疼きを抑えきれないのか、細腰が揺れだした。緩く握りなおして、動きを妨げぬよう僅かに身体を浮かせれば、手の中に擦りつけるように腰を突き上げてくる。
 きっと無意識になんだろう、初めて他人の手に触れられる快感に、理性が飛びかけているらしい。俺の腕に縋る指先にも力がこもる。
「風呂でこんな風に自分で気持ちよくなってたんだ……いやらしいな」
 囁いてやった途端、自分の痴態に気づいたのか、カッと頬を紅潮させ、慌てて俺を押し返そうとする。それを許さず手を動かしてやれば、すぐにまた縋りついてくる、細い指。
「我慢しないで、もっと自分で気持ちよくなっていいよ。なぁ、自分でするとき触るのはここだけ? こっちは?」
「ひっ! や…ぁ……っ!」
 胸の小さな突起を爪で引っかくと、さっきまでより艶のある嬌声が上がった。
 それに気を良くして、しつこい程に指で弄ってやると、耐えきれないと言いたげに首を打ち振り、義母は甘く喘いだ。
「ここ、こんなに小さくてもちゃんと感じるんだな……気持ちいい?」
 言葉にする余裕もないのか、こくこくと頷き、荒い息を繰り返してる。まだ握ったままの手も、緩やかに動きを再開してやれば、またあがる嬌声。
「そんなに気持ちいいなら、こっちも自分で弄る? それとも……」
「……っ! ふ…ぅ……っ」
「こんなふうに、俺に気持ちよくされたい?」
 舌先で、健気に勃ちあがった突起を舐め転がしてやると、きつく閉じられていた瞳がゆるゆると開いた。
「……ルイが、して……」
 聞き取るのがやっとの、小さな囁き。とうとう頬を伝い落ちた雫。炎を受けて、妖しく煌めく……。
 もっと苛めてみたい衝動はあったが、もう、俺も我慢できなくて。
 答えを返してやる代わりに、乱暴にネクタイを緩め、噛みつくように震えている唇を奪った。
 舌を絡めあい、吸いあげ、思う様口内を犯し尽す。左の掌で胸を、右手で濡れだした肉芯を愛撫しながら。飲み込みきれない互いの涎液が、シャツの襟を濡らすほど伝い落ちていくのも構わずに。洩れる吐息や喘ぎすら逃したくないと、唇を、舌を、一瞬たりとも引き剥がせず。
 淫猥な水音が、右手で擦りあげるそこからも確かに聞こえ始め、掌をしとどに濡らすに至り、漸く義母の唇を解放した。
 だが、息をつく暇を与える余裕なんて、俺にもない。
 悦楽の証しに濡れた指を、義母のまだ誰の目にも触れたことのない蕾に押し当て、揉むようにしながら潜りこませていく。
 小さく叫んだ後、息を詰め唇を噛みしめた義母は、忽ち四肢を強張らせた。
 身体をずらし、ぴくぴくと震えながら泣き濡れる昂ぶりに、宥めるように唇を落とす。舌先に感じる熱と味わいに興奮が抑えきれず、深く咥えこんでやれば、とうとう泣きじゃくりはじめた。
 狭くきつい後腔を指で掻き回すようにしながらの口淫は、経験のない義母には刺激が強すぎるようだ。
 もっとゆっくり時間をかけて慣らしてやりたいと思いはするが、言葉にならない喘ぎに混じり、たどたどしい声で名前を呼ばれたら、もう堪えられなくなった。

「痛かったら暴れてもいいから」

 口早にそれだけ告げ、ベルトを外すのももどかしく、指を義母の秘所に収めたまま、急かされるように自身を取り出す。先走りに恥ずかしいほど濡れた自分の熱を、苦笑してみせる余裕もない。
 未だ固く窄まり侵入を拒む蕾を、2本の指で押し広げ、濡れた先端を数度擦りつけた後、力任せに捻りこんだ。

「あああっ!!」

 絶叫とともに撥ね仰け反る華奢な肢体。微かに首に走った痛みは、耐え切れず義母が立てた爪によるものだろう。
 まだ半分ほどしか挿れてはいないが、このまま押し入れば痛みばかりを与えてしまいそうだ。
 がくがくと震えるしなやかな脚を抱え上げ、肩にかけさせる。少しでも受け入れやすい体勢をとらせ、義母が落ち着くのを待ってはみたが、義母にもどうにもならないのか、身体の力は一向に抜けなかった。
「無理そう? ……これ以上はやめておくか?」
 きつく締め上げられた俺自身も、快感より痛みが勝るが、それ以上に泣きながら震える義母の姿態は痛々しくて。思わず問いかけたら、義母は零れる涙はそのままに、うっすらと笑った。
「……今更なに言ってんだ」
 さっきまでの強引さはどうしたと笑う。正直な身体はまだ緊張が解けず、震えを止めることもできずにいるくせに、そんな言葉で俺を受け入れようとする義母が、ただ愛しい。
「痛めつけたくてしてんじゃねぇんだから……」
「なら、気持ちよく、して……? ルイさん」
 細い腕を俺の首に絡め、囁くように言う。痛みを堪えている所為か声が震えている。瞳もまだ涙に濡れていたが、真っ直ぐに俺を見つめていた。
 どんな時でも凛と前だけを見据える瞳。初めて出逢ったときに、俺の心を一瞬で奪ったのは、この強い瞳だった。

「……お義母様のお言いつけとあらば」

 笑いながら囁き返せば、満足気な笑みで抱きついてくる。あやすように二、三度涙に濡れた頬にキスしてやり、再び萎えかけた昂ぶりに手を伸ばした。
「んっ……あ、ん……」
「気持ちいい?」
 俺の首に縋り、肩口に顔を埋めるようにしながら、義母は小さく頷いた。ガチガチだった身体も、少しだけれど緊張がほぐれてきたみたいだ。
「もっと気持ちよくしてあげるから、ちょっと我慢、な?」
 耳の先を軽く噛んで囁く。首を竦めた義母は、言葉の意味を悟ってか、深呼吸するよに大きく息を吐いた。
 俺の総てを受け入れようと賢明になっている健気な様が、どうしようもなく可愛い。
 刺激を与える手はそのままに、ゆっくり身体を押し進める。
 浅い呼吸を繰り返し、時折息を詰まらせ四肢を強張らせる義母に、その度口吻けながら、深く自身を収めていく。締めあげるどころか、食い千切られそうにキツい義母のそこは、それでも賢明に俺を飲み込もうとしていた。

「あっ!」

 突然、義母の肢体が撥ねた。唇を戦慄かせながら呆然とした瞳で俺を見上げている義母に、一瞬の動揺が確信に変わる。僅かに腰を揺らせば、敏感になった自身のくびれに小さな引っ掛かりを感じた。
「……ここが、妖一のイイトコ……?」
「ああっ! や……な、に……っ」
 擦るように動かしてやれば、叫びにも似た嬌声をあげてよがる。もはや疑いようもない。
 異物の進入を拒んでいた内部が、拾い上げた快感に変化の兆しを伝えてくる。ただでさえキツく狭いそこが、絞り上げるように蠢く。堪らず突き上げれば、もう歯止めが利かなくなった。
「あんっ! あっ、ああ……っ! や、そこ…ダ、メ……っ!」
「やじゃないだろ? な、素直に言ってみな? もっと気持ちよくなれるから……ほら、ルイ、気持ちイイ、もっとしてって……」
「やっ……んな、恥ずかしいこと……」
「恥ずかしいほうが気持ちいいくせに。ね、言って……言われた通りにしてやるから」
 言いながら、柔らかく解れてきた後腔を掻き混ぜるように腰を回してやれば、華奢な首を仰け反らせて喘ぐ。恍惚として閉じることを忘れた唇から、涎液が伝い落ちていく。淫蕩なその表情に見惚れていると、義母は小さく呟いた。
「あ、あ……今、の……」
「ん? 今の、好き?」
「ん…好、きぃ……もっと……ルイ……」
 呂律の回らぬたどたどしい言葉が、更に興奮を呼んで。腰を回すように突き上げてやれば、悦びの声をあげ義母も細い腰を自ら揺らし始めた。
「いいぜ……上手だな、妖一」
「あっああんっ! ル…イ……ああっ、イイッ! なか…熱い……っ」
「うん、俺も、火傷しそう……すげぇ気持ちいい……」
 箍が外れたようにお互いを求めあい、激しく腰を揺さぶりあう。淫猥な水音に混じり、義母の背でスーツが畳に擦れる音がする。明日はきっと使い物にならないだろうと、快感に支配された思考の片隅でぼんやり考えた。
 しなやかな脚が、俺の背で交差する。足首に辛うじて引っかかっていた布地が畳に落ち、爪先がしきりに俺の背を掻く。
 荒い息遣いに混じり、絶えずあがる喘ぎと呻き。祭壇から香る抹香や酒気の残り香を掻き消して満ちる、汗と欲望の匂い。まるで肉欲に溺れた獣のように、高まりあうことに夢中になって。

 ああ、確かにケダモノじみてる。恋の成就に人の死を願い、故人の前で、義理とはいえ親子で繋がりあうこの姿は、きっと禁忌をやぶる獣のように見えるだろう。

 けれど、それでもいい。この人の総てを手に入れる悦びの前では、禁忌を冒す罪悪感などなんの意味もない。
 汗ばむ白い肌を包む漆黒の布地が、背徳の色を濃くし、歪んだ興奮に我を忘れ激情のままに腰を打ちつけた。絶頂が近い。このまま最奥にぶちまけてやりたい衝動に駆られ、唇を噛む。
「も、ダメ……イかせ、て……ルイッ!」
「ああ……一緒にイこうぜ」
 限界を訴える義母に微かに笑いかけ、乾くことを忘れた肉芯を擦り上げながら闇雲に腰を突き上げた。
「あああっ! ルイ……っ!!」
 絶叫するように俺の名を呼びながら達した義母から、寸でのところで自身を抜き去れば、汗に濡れた白い肌と着込んだままの喪服に、互いの白濁が散る。
 こんなにも強烈な快感は、俺にも初めての経験で。見下ろす義母の妖艶な姿態を前に、僅かばかり呆然とした溜息が零れた。

「……カメラ、この部屋のは残しとけばよかったな。こんな格好ですんの、二度とねぇだろうし……勿体ねぇ」
「……変態」

 絶頂の余韻を残した顔で、義母がクスリと笑う。ぞくりと背筋を快感が走って、思わず苦笑した。
「初めてなのに乱れまくれる淫乱には、それぐらいのほうが似合いだろ?」
「そんなふうにさせたのは自分のくせに……」
「ちゃんと責任とってやるよ。すぐにこっちに戻ってくるから……そしたら、毎日だって可愛がってやるからな」
「ん……」
 暫く口吻けを楽しんだ後、義母はクスクスと声をたてて笑った。
「なぁ、明日の葬儀で宣言しちまおうか」
「なにを?」
「ルイさんと一緒に、あの人の残した会社を一生守り抜きます、って。誓いの口吻けまでは流石にできねぇけどな」
「いいな、それ」
 明日の喪主挨拶で、生涯義母を守り抜くと誓う自分の顔が、誇らしさに笑ってしまいそうになるのが、目に見えるようだ。
 それを告げたら、義母は悪戯めいた笑みを見せ、少し羞じらいながら再び足を開いた。
「沈痛な顔できるように、もう少し疲れておくか?」
「お互いに、な」
 囁きを拒む気なんて、毛頭なく。夜はまだ、長い。

 忍び笑う互いの声のなか、遠くで祝福の鐘の音が聞こえたような気がした。

                               END