「俺が死んでも、きっとお前は笑ってられんだろうな」
笑いながらサンジが言う。思わず眉根を寄せれば、少し困ったように肩をすくめるけど、笑みは消えない。
「冷てぇって言ってるわけじゃねぇんだよ。クソ当たり前のことだって思ってさ。例えば明日俺がくたばったとすんだろ? お前が泣くかは判らねぇが、まぁ、ちっとは悲しんでくれんだろうな。で、夜には眠くなって、次の日には腹だって減る。三日もすりゃあ、誰かと笑ったりすんだ。最初はぎこちなくでも、その内今と変わりなく笑うだろ?
当たり前だよな、お前は生きてんだし。俺がいなくても、世界はクソ変わりゃしねぇ。でなきゃ俺が困っちまう。心配でおちおち死んでもいらんねぇ」
サンジは笑っている。俺はますます顔をしかめる。
「判ってんのに、そうじゃなきゃいけねぇのに……なんでだろうな、俺がいない世界でお前が笑ってるの想像すると、泣きたくなっちまうんだ……」
笑っているのに、サンジの瞳は泣き出しそうに揺れてて。強くその瞳を睨みつけた。
「怒んなよ。それが悪いって言ってるわけじゃねぇ。俺だって、お前が俺より先に逝っちまっても、その内笑えるようになるだろうしな。お前よりはクソ遅ぇだろうけど……っ!?」
うるさい口を無理矢理塞いで、よく動く小憎たらしい舌に強引に舌を絡める。
数瞬のためらいをみせた後、きつく舌を吸い上げられて、閉じた目尻に涙が滲んだ。
シャツの裾から入り込んだ冷たい指先に、安堵する。余計なことを聞かずに済むにも、勝手に潤む目を言い訳するにも、こいつの与える快感は都合がいい。
きっとサンジが言うように、サンジが死んでも腹は減るし、眠くもなる。何も変わりなく夜が明け朝が訪れるように、サンジがいない世界で、俺は誰かと笑うんだろう。
それは確かに当たり前のことで、責められる筋合いも責める道理もないのだけれど。
例えば明日、俺が死んで。
サンジが俺のいない世界で、誰かと笑っているのを思い浮かべたら、ひどく胸が軋んだ。
例えば明日、俺が死んで。
サンジが俺のいない世界で独りきり、笑うことも忘れて生きていくのを思い浮かべたら、叫びだしそうなぐらい、泣きたくなった。
死んでも涙なんて見せてやらねぇけど。どうしようもなく、俺も、泣きたくなったんだ。
終