夢の前に、夢の後で

 まさかと疑う時期はとっくに過ぎて。
 一体なんでとか、どうして俺がとか、煩悶する日々もとうに過ぎ。
 足掻きまくった挙句に、不意にすとんと胸に落ちた肯定も、今じゃ懐かしいぐらい昔の話。
 俺の肩にも届かなかった奴の背が、俺と視線が変わらなくなるほど伸びるのに費やした月日は、そのまま、俺の片思いの歴史になっていた。

 キッチンと呼ぶのもおこがましいような、狭苦しい流しに立つ男の背中を横目で窺いながら、ゾロは小さく鼻を鳴らした。息苦しさに小さく身じろぎ、熱のこもった息を吐く。霞む視界がわずらわしい。
 闇雲に鍛えた体は滅多に不調を訴えることなどないが、一端崩してしまうと、今までのツケとばかりに盛大に寝込む羽目になる。
 毎年季節の変わり目には風邪を引くんだからと、常より三割増には口うるさくなる従兄弟の忠告も大して役には立たず、今年初めての風邪に布団に押し込められてから、もう三日は経っただろうか。
 時間の感覚が失われて、やけに昔のことばかり思い出されるのも、毎度のことだ。二つ年下の従兄弟の看病と言うオプションも、相も変わらぬ光景だった。

 年々変わっていくことといえば、自分たちの年齢と、それに見合うだけ成長していく体。こいつの料理の腕もかと、ゾロは熱に潤んだ瞳をわずかに細めた。

 それから、俺の、こいつへの気持ちと。

 思ってゾロは眉根を寄せた。風邪を引くと、押し殺した想いが容易にあふれ出る。意識を保っていなければなにを口走るか判ったものではないと、ゾロは熱に潤む瞳をまばたかせた。
 まさかと打ち消したそれは、疑い様のないところまで辿りつくのに時間はかからなかった。なんで、どうしてと悩みまくって、無駄な抵抗を繰り返した月日のなかで、何度も気付かされ、認めざるを得なくなったころには、チビだった従兄弟の背はゾロと変わらなくなっていた。

 変わらないものなどないのだと知らしめるように、流しに立ち鼻歌混じりに調理する従兄弟の背は、いつのまにやら広く逞しくなり、すでに子どものそれではない。聞こえる声ももはや低い男のものだ。
 それでも、体の見た目はそろそろ頭打ちで数年代わり映えはしないだろうし、自分の心も立ち止まって久しい。けれど、やっぱり変わらないものなどないのだ。いつかはこの光景も失われるだろう。
 熱に浮かされて視線をやるそこに、見慣れた背中がある日々も、思い出へと変わっていく。記憶のなかに閉じ込められる。そうして思い出すのはきっと、もう失われた子どものころの光景だ。

 熱を出すといつでも決まって思い出すのは、初めて従兄弟が看病してくれた日のことだった。今も思い浮かぶそれに、瞳に男の背中を映したまま、ゾロは小さく口元を緩ませた。

 涙で顔をぐしゃぐしゃにして、しゃくりあげながら幼い声で、「ゾロ、死んじゃやだっ。死んじゃやだよっ、ゾロ」などと、ただでさえ気弱になっている病人に不吉なことばかりほざくガキだったと、息を殺して小さく笑う。
 俺が看病するんだと言って譲らず、びしょ濡れのままのタオルを額に当てられたのにはまいった。剥いてくれた林檎は妙に角張っていたし、茶色く変色してもいた。
 それでも、なにをされても怒る気など起こらなかったのは、小さな従兄弟の不安げで懸命な様子が、どうにも愛しかったからには違いない。

 父の弟が再婚した女の連れ子。従兄弟とはいえ、血の繋がりなどどこにもない。

 初めて会ったのは、夏だった。叔父の影、叔母になったという優しげな人に手を引かれて立っていた小さな子ども。とにかく生意気だとしか思わなかった。
 いや、それは正しくはないだろう。
 本当は見惚れたのだ。きらきらと陽射しを弾く金色の髪に。上目遣いの深い青の瞳に。白いふっくらとした頬も、薄く開かれた桜色の唇も、それまでゾロの周りにいたすべての人とはかけ離れていて、以前クラスメートに見せられた天使のイラストのようだと目が離せなくなった。

「なにじろじろ見てんだ。金髪がそんなに珍しいかよっ」

 その子が甲高い声でどこか馬鹿にしたように言い放ち、ふんと鼻を鳴らすなんてこと、想像もしておらず。その物言いが癇に障ったというよりも、見惚れていたことを見透かされたように思えて、誰が見てたって? と、思わず語気が荒くなった。
 今ならば照れ隠しでしかないと自分でも認めざるをえないが、あのころは、とにかくもう生意気なガキになめられてたまるかと、躍起になって掴みかかった。
 腕っ節には自信があったし、二つ下だという子どもはそれを差し引いても細く小さかったから、ねじ伏せるのなんて簡単だと思ったのに。結果的にそれは果たされたが、簡単とは到底言いがたかったと、ゾロは小さく笑いつづける。
 思い出はいつも優しい。子どもがゾロの腕に残した引っかき傷や噛み跡までもが愛しく思い出されるほど、過ぎる歳月は記憶に優しい色を添える。
 それが苦しくなったのは、一体なぜなのか。悩み惑うころはもうとうに過ぎたというのに、それでもまだ繰り返し胸を過ぎる問いかけは、答えを持たない。

 大人による手当てと説教が済んだ後に、母を捨てた男と同じ色の髪なんて嫌いだと、ぽつりと呟いた子どもの横顔に、胸を締め付けられた。ゾロにだけ聞こえる小さな声で、生意気な子どもが不意に見せた切なさに突き動かされ、愛しいなんて言葉も知らぬまま、こみ上げる何かに逆らえず、不器用に嫌いだというその髪を撫でた。

「綺麗なのに、嫌いだなんてもったいねぇな」

 どうしても伝えたい言葉ほど、ぶっきらぼうになってしまうのが、ゾロの悪い癖だ。
 ああ、こんなんじゃ伝わらない。慰めにもならない。
 焦れば焦るほど、不機嫌に見えてしまうらしい自分の顔が憎たらしく思えてくる。きっと子どもはまた馬鹿にされたように感じてしまうことだろう。もしかしたら傷つけてしまうかもしれない。心の内で煩悶するゾロを、子どもは青い瞳でじっと見ていた。

「母さんも同じこと言う……。父さん、母さんのこと、ぶってばっかいたのに、俺の髪、綺麗だって。同じ色なのに……」
「……そっか」
「うん……」

 気の利いた言葉なんて言えるわけもなかったが、どうにかしてこの生意気で稚い生き物から愁いを取り除いてやりたくて、ゾロは黙って金色の髪を撫で続けた。
 なにを思っているのか、その手を振り払うことなくまっすぐにゾロを見つめつづける子どもの視線が、ゾロの日焼けした頬に朱をのぼらせる。見つめ返してやることはできず、睨みつけるように庭に視線をやったまま、それでもぎこちなく髪を撫でつづけていると、ふいに小さな笑い声が聞こえた。

「ゾロ、噛んでごめんな」

 驚きに眼差しを移した先、幸せを集めたような笑顔を見せて言う子どものその声が、初めて自分の名前を綴る。妙に気恥ずかしいような、誇らしいような、自分でも説明のつかない不思議な心持ちで、ゾロはぶっきらぼうにうなずいた。

「俺も、ごめんな。……サンジ」

 自分の声がその名を初めて綴るのが、やけに照れくさかった。

 思い出は、いつもあの夏に行く還っていく。
 二人で縁側に座り、呼ばれるまで黙ってずっと虫の音を聞いていた、あの夏の日に。
 いつでもゾロの傍で笑ったり怒ったり忙しかった子どもは、どんどん大きくなっていく。少しずつ背丈の差がなくなって、幼い声は低い男のものになり、二人で駆け回った野原の香りの替わりに、煙草の匂いを身に纏うようになったサンジ。
 これから先も決して変わらないのは、自分とサンジの心のあり方の違いだけだと、ゾロは熱に潤んだ瞳を閉じた。
 鼻歌混じりに調理する男の背中が視界から消えても、瞼の裏に住み着いた笑顔は消えてはくれない。好きな女ができたと言っては騒ぎ、振られたと言ってはまた騒ぐ。
 見たくもなかったそんな顔すら、ゾロの瞼の裏側は忘れてはくれない。瞳を閉じても、はっきりと思い描ける。きっとサンジ本人よりもはっきりと。
 笑う顔が愛しいと。泣く顔が切ないと。いつから思うようになったのかを考えることは無意味だ。サンジの心が自分と同じであればいいと願うのと同じくらい、埒も無い。
 確かなものなど、そこにはないのだ。想いを認めたところで、それでなにかが変わるわけもなかった。
 距離をおくことで風化させようとしたささやかな抵抗すら、サンジはいともたやすく打ち破る。大学にいたるまでことごとく続いた同じ進学先。就職は遠く離れた場所にと思っていたが、盛大な喧嘩の末に
「淋しいだろ、すぐに会えないなんて……」
 拗ねたように、あまつさえ涙ぐみ鼻を啜りながら呟かれてしまえば、逃げる手立てなど失われた。
 甘いと自身を叱咤してみたところで、結局は泣く子に勝てない。どこまでも優しいこの男は、いつだって自分にだけ残酷だ。無自覚な分、性質が悪い。
 子ども扱いするな、年上面するなと喚くくせに、こうして子どものままの残酷な我侭で、ゾロを縛り付ける。
 いや、惚れているから、自ら縛られてしまうのか。
 思わず吐き出した息が震えた。
 心に鍵をかけて、思い出すな、考えるなと言い聞かせてみても、こんな日にはとめどなく思い出はゾロを包んでしまう。
 優しい思い出のなかには、恋なんて言葉すら必要としなかった幼い夏の日の記憶の中には、叫びだしたいような苦しさも、捨て去りたい醜い嫉妬も存在しない。あるのはただ、熱に浮かされた幻想のような優しさだけだ。熱が下がれば遣る瀬無さしか残らない、残酷な優しさだけ。
 それでも。縋るように記憶はあの夏へと還っていく。

 だから風邪を引くのは嫌いだと、ゾロは閉じた瞼に力をこめた。熱に浮かされるとどうしても気が弱くなる。押し殺した想いが溢れ出して、サンジに悟られはしないかと怯えてしまう。
 それなのに、傍にいることを拒めないのは、結局のところ自分もそれを望んでいるからだろう。まだなにも変わらないのだと信じたくて。今はまだこの男の優しさを、自分が独占する時間が許されているのだと思いたくて。苦しいばかりのくせに、拒めない。
 こみ上げかけた涙をこらえて深く息を吸い込んだ。途端にせり上がった咳はこらえ様がなかったが。

「ゾロ、大丈夫か?」
 慌てて近寄ってくるサンジに背を向けて、大丈夫だと返した言葉は無様に掠れ、不意に浮き上がった体にゾロは瞳を見開いた。
「病気の時ぐらい強がんなって、いつも言ってっだろ?」
 抱き起こされ、抱きしめるような体勢で背を摩られる。今はもう大きくなった右手が、ゆっくりと宥めるような動きで背を摩り、左手がゾロの頭をそっと肩口に押し付けている。
 子どものころからスキンシップの好きな男だ。酔った時などこんな風に抱きついてくるのは珍しいことではない。けれど、弱っている時にこの温もりは辛すぎると、ゾロは咳のためだけではない涙を瞳に滲ませた。
「も、いい。……悪かったな」
「お父っつぁん、それは言わない約束よ」
 笑いながら馬鹿な軽口を叩きつつも、サンジの手はまだ優しく上下している。いつのまにか左手もゾロの髪を撫でていた。
「おい……いい加減放せ」
「寒い?」
 少し不安げに問う声に、そういうことじゃないという言葉を飲み込み、眉間に皺を刻む。
 困るだなんて、言えない。お前の腕の中は心地好くて困るだなんて、ありえない望みを抱きそうで辛いだなんて、言えるわけがない。お前に惚れているから悲しいなんて、言うわけにはいかない。
「なぁ、ゾロ」
「なんだよ……」
 辛いのに。悲しいのに。サンジの温もりを振りほどけない。
 ああ、好きなんだ。俺はこいつが、好きなんだ。ことあるごとに心密かに認めさせられた事実を、また噛みしめる。
 年下で、男で、生意気で。女癖が悪くて口も悪くて、優しくて残酷な、こいつが。

「ゾロ、俺がへこんでるといつもこんな風に髪撫でてくれんだろ?」
「……そうだったか?」

 陽射しを弾く金色の髪も。まっすぐに見つめる青い瞳も。

「そうだよ。初めて会ったときから、いつもいつも、俺が泣けばゾロは頭撫でてくれた」
「ああ……そうかもな……。お前、泣くとしつけぇから」

 耳元をくすぐる甘く低い声や、常に身に纏う煙草の匂いも。

「しつこく泣いて喚いてすんのはぁ、そうすっとゾロが撫でてくれっからだって言ったら……信じる? 大嫌いだったこの髪も、ゾロが撫でてくれるから好きになれたんだって言ったら、信じてくれる?」

 むかつくところも、うざいと思うところも、たくさんあるけど。

「……なに、言ってんだ」

 お前だから、好きで。好きだから、こんな風にゆっくり視線を合わせて微笑まれたりしたら、それだけで誤解してしまいそうだ。

「ガキみてぇなこと、言ってんなよ」
 期待するなと自分を叱咤してみても、声はみっともなく掠れて、流されそうだ。
「ガキかもしんねぇ。っていうかさ、ガキになっちまってもいい?」
 微笑が消えて、青い瞳が射抜くようにゾロを見つめている。
 我知らずゾロは体を震わせた。卑怯だと思う。こんな時に、いきなり知らないお前を見せるなんて。

「なぁ、わかってる? 俺がガキだったら、困んのはゾロなんだぜ?」

 こんな目は知らない。こんな男は知らない。笑ったり怒ったり、拗ねたり泣いたり。色んなサンジの顔を見てきたけれど。女の話をする時ですら、こんなあからさまな雄の瞳を見せたことはなかったじゃないか。

「後先考えずに、ゾロの気持ちとか迷惑だとかなんにも考えずに、ゾロを俺のものしたいって、俺だけのものにしたいって言っちまうガキに、なっちゃってもいいの?」

 ふいに、ぎらついた雄の瞳がいつもの優しい色を見せ、困ったようにサンジが微笑むのが見えた。くるくると表情を変える綺麗な顔。それを見ているのが好きだったけれど。でも今日はその変化についていけない。熱があるから。気が弱くなってるから。言い訳して、視線を逸らす。
「ガキだと思われてるうちは、ゾロの傍にいられる。でも、本当にガキでいたら、ゾロの傍にはいられなくなってた」
 頭に添えられていた手がゆっくりと頬に触れてくる。

「ねぇ……好きだって、言ってよ」

 見開かれたゾロの視線の先、優しい声で、残酷な言葉を、愛しい男が綴る。
「俺のこと、好きだって……」
 頬を濡れた感触が伝うのは、気のせいだと思いたい。
「好きなのは、恋してるのは、俺だけじゃないって……言って」
 体が震えてやまないのは熱の所為だと。
「ずっと好きで、離れたら泣いちまうぐらい惚れてるのは、俺だけじゃないって、言えよ……ゾロ」
「なに、言ってんだ……なに言ってんだよっ。てめぇ、信じらんねぇ女好きじゃねぇか。なんで、んな馬鹿なこと……」
「女の子は好きだよ。けど、ゾロじゃないから、ダメなんだ」

 長い指が頬を撫でる。
「ゾロと肌の色が似てた子も、ダメだった」

 唇が近づいて、思わず閉じた瞼に落ちた。
 「ゾロと目が似てる子も、ダメ」

 背を抱いていた手も、頬にまわって。
「ゾロの喋り方に似てる子も、ゾロと耳の形が似てる子も、ゾロの考え方に似てるなって思った子も、それから……」

 近づいてくる吐息に、また目を閉じる。その先に続く行為は容易に思い浮かんだけれど。

「唇が似てる子も、続かない。ゾロにちょっとでも似てる子はそれだけでほかの子より好きになれたけど、でも、ダメだった。ゾロじゃないから、ダメ。ゾロじゃなきゃ、ダメなんだ……」

 触れただけの唇は、まだ1センチと離れていない場所にあるんだろう。囁く声が、唇を擽る吐息が、実際に触れあった瞬間よりも体を震わせる。

 夢かもしれない。熱に浮かされて、都合のいい夢を見ているだけかもしれない。
 夢の中ですら、これは夢だと諦めていたこんな言葉は、温もりは、熱が見せる幻覚なのかもしれない。それでも。

「もう俺、正直限界なんだよね。でも、もうガキじゃねぇから、このまま進むこともできねぇ。だから……」

 夢ならそれでもいいと、堪えきれずにしゃくりあげた。まるでガキみたいに。

「俺のこと好きだって言って……ゾロ」

 悔しくて、泣き顔なんて見られるのはごめんだとサンジの首にしがみつく。

 言うのが遅ぇんだよと、悪態をついて。
 さっさとてめぇから言えと、ついでに拳骨をくれてやって。
 ああ、畜生。頭が痛い。熱だってきっと上がってる。全部、全部、お前のせいだと、駄々をこねてやる。ガキみたいに。

 ずっと、ずっと、兄貴みたいに、保護者みたいに、お前を甘やかしてきてやったツケを払いやがれ。ガキでいられなかったのは俺も同じで、ガキの振りすらできなかった分、割を食ったんだ。今度はてめぇが俺の我侭を聞く番だと、喚いてやる。

 嬉しそうに笑いながら、一々うなずいてんじゃねぇよ。ガキだったくせに。誰と遊んでたって俺が行けば尻尾振ってくっついてきた、甘ったれなガキのくせに。

 熱があってよかった。初めてそんなことを思った。ボロボロ流れてどうしようもない涙も、溢れて止まらない我侭も、熱のせいにできる。それでも言えない言葉を欲しがって、サンジの声が拗ねた色を帯び始めるころには、それを言い訳に眠り込むことだってできる。

 溜息をついて俺を布団に押し込んだ手が、愛しげに髪を撫でる。俺がしてやっていたのよりずっと淀みない動きで。

「お休み、ゾロ。……好きだよ」

 髪に落ちた唇は、きっと微笑んでいただろう。青い瞳は優しく細められていたんだろう。見なくてもわかる、変わらないサンジの顔を思い浮かべて、ゾロは小さく笑った。
 朝になったらきっとサンジは少し拗ねてみせるのだろう。まだ言ってもらっていないと、ガキのように唇を尖らせて。そうしたら、いつものように髪を撫でてやろうと決めた。
 朝になったらきっと、この熱も下がっているだろうけれど、それでも夢の続きがそこにあったなら、言ってやろう。大好きな金色の髪を撫でながら。
 気付いてるくせに聞きたがるなと、笑ってやろう。まだまだガキだと、笑いながら言ってやるのだ。

 今はまだサンジには聞かせない言葉を、ゾロはこっそりと呟いてみた。サンジ、と、初めて口にした時のように擽ったい気持ちになりながら。

 小さな声で。眠りの扉をくぐる前に。

「俺も、好きだ……バァーカ」

                                      終