眩しいものは

 ヒル魔の寝室は東向きで、窓際に置かれたベッドで一緒に眠ると、葉柱は決まって眩しさで目を覚ます。
 なぜだかヒル魔は遮光カーテンを使わないので、元々夜型にできてる葉柱にしてみれば、その陽射しの洗礼は強烈過ぎるほど。
 今日も閉じた瞼の上からでも感じる眩しさに、否が応にも覚醒をうながされ、葉柱はわずかに眉間に皺を寄せた。
 うっすらと目を開ければ、目に入るのは光の乱舞。腕のなか、窓に背を向け眠るヒル魔の金髪が、朝日を弾いて葉柱の目を焼く。

「……おはよ」

 本当はもっと、ヒル魔のなめらかな背を抱いて眠っていたいけれど、不思議とヒル魔は葉柱より先か、遅くとも葉柱より数十秒後には目を覚ましてしまうので。その寝顔を堪能するほど見つめていられたことはない。

「ん……」

 今日もすぐにヒル魔の瞳は開いて、起きぬけの少しだけぼんやりとした顔で、葉柱を見つめる。たまにふんわり微笑んだりもする。
 穏やかで、緩やかな、朝のひと時。葉柱にとっては至福とも呼べる時間だけれど。

「ッシャ! 今日も晴れてやがんな。おい、シャワー浴びてくっから飯作っとけよ」

 なんて、つれない一言だけ残して、ヒル魔はさっさと葉柱の腕のなかから抜け出てしまうから。葉柱は今日も、既に馴染んだ溜息をつく。
 悪魔のくせに完全昼型、朝日とともに気力充填完了、起きればすぐさま行動開始。イメージはどう見たって夜が似合いの男なのに。
 ああ、そうですね。朝が来ればまたアメフトできますからねー。そりゃご主人様は嬉しいでしょうよ。ベッドのなかで布団と互いの肌の温もりを惜しんでイチャつくより、そりゃぁ楽しかろうよ。畜生め。

 判り安すぎる答え。単純明快すぎて、いっそ泣けてくる。
 わずかかばかりの不満を飲み込んで、葉柱は、いまだだぼんやりした視線でヒル魔の背を追う。
 ともに汗と歓喜にまみれた翌朝は、いつだってお互いの肌の感触だけをまとって眠りにつくから、ヒル魔の白くなめらかな肌は、惜しげもなく晒されたまま。足取りも軽く、意思的に。朝日を浴びてきらきらと、うなじの上、金色の髪踊るように跳ねさせて。

 動けることが楽しい。生きていることが嬉しい。今日もまたアメフトができる。

 そんな言葉が聞こえてきそうな、エネルギーに満ち溢れたスレンダーな体躯。目を焼く陽射しより、よっぽど眩しくて。
 思わず見惚れていれば、ふと立ち止まりベッドに戻ってくるヒル魔。ちょっと目のやり場に困る。

「忘れもん」

 小さくつぶやいて、唇にキス。触れるだけの。

「Good morninng,fuckin’ slave」

 にんまりと笑う。悪戯が成功した子どもみたいに。耳の先、ほんのちょっぴり赤く染めながら。

朝日を浴びて。
幸せそうに。
眩しいくらいに。

 少しの不満は、するり、葉柱のなかから消え失せる。額をくっつけあって笑ったら、葉柱の気力も完全充填されて。今度こそ、今日の始まり。

 こんな瞬間を少しでも早く味わえるなら、朝日に満ちる部屋も、悪くない。

 そんなことを考えながら迎える、いつもの朝。

                                     END