SS~短編

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Hush a Bye Baby(ロング&炭治郎おたおめvr.)

眠い。半ば眠りながら歩いてるぐらい、とにかく眠い。 昼休みの喧騒すら意識の片隅をかすめるだけで、炭治郎の頭には「眠い」以外の言葉はろくに浮かばなかった。誰かに呼びかけられるたび反射的に笑顔を向けるのは、長男として培ってきたやせ我慢の賜たまも...
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ずっと、ずっと、いついつまでも

今日はどうにか十一時には帰宅できた。いや、それでも遅すぎなのに変わりはないけれど。湯船に足を入れた義勇は、われ知らず深く嘆息した。 そろそろ日付も変わるだろうか。疲れた。いや、疲れ果てている。温かな湯に包まれると気づかぬようにしていた疲労が...
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押されて引いて、恋愛計算答えはいつか

「あの……ドキドキしますか?」 と、言われても。義勇はどう答えたものかと、わずかに眉根を寄せた。 ドキドキの意味によっては、はい、だ。つま先立ってプルプルしている炭治郎の足を見ると、どうにもドキドキする。もっとふさわしい言葉で言うなら、ヒヤ...
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Please cry baby

卒業式後に義勇に告白したとき、炭治郎の顔はまるで決闘でも申し込むかのようだった。 俺も好きだと言われたときの顔はといえば、鳩が豆鉄砲を食ったようで、すぐにグシャグシャに泣き崩れた。涙だけでなく鼻水まで大盤振る舞いの大号泣だ。めったに着られる...
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甘くても、苦くても、きっと一番おいしい

元日のテレビ番組は、炭治郎にとってはさして興味のないものばかりだ。もともとテレビを観る習慣はほとんどなくて、茂や六太につきあってアニメを一緒に観るくらいなものだから、タレントにだって詳しくない。 義勇の部屋にいるときはなおさらで、義勇も観る...
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さよなら、さびしんぼ

その日、鴉が運んできた文ふみに炭治郎は目を輝かせ、ついで、少しだけ泣いた。 文に書かれた文言は、一日きりの休暇を告げるものだった。それは、涙で文字がぼやけて見えるほどの感謝と歓喜を、そして、わずかばかりのやるせなさを炭治郎に与えた。  夕日...
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神のまにまに恋しかるべき

出現は途絶えても、鬼の噂がまるきりなくなったわけではない。行方不明や食い殺された遺体の発見があれば、隊士が調査におもむくことはままあった。 人選は、このところ水の呼吸の兄弟弟子に集中している。水柱、冨岡義勇と、同門である竈門炭治郎。柱稽古に...
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子供の領分、大人の領域

義勇さんに稽古をつけてもらうようになってから、一緒に食事に行くことも必然的に増えた。 柱である義勇さんが選ぶお店は、きっとお高いに違いない。初めて食事に行くぞと言われたときには、そんな不安がちょっとあってドキドキしたりもしたけれど、義勇さん...
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春のうららの

里山の外れの竹林に住む鶯の番は、ちょっと変わっているとここらの鳥たちのなかでは有名だ。なにしろどちらも雄なのだ。鶯は一夫多妻制で縄張りのなかにいくつも巣があり、それぞれにお嫁さんが子育てしているのが常だけれども、その番はお互いしか目に入って...
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繰り返す初めましてのその先の

炭治郎は滅多に緊張することがない。緊張しないわけではないが、いつだってなるようにしかならないとすぐに腹を決めるのが常だ。 少なくとも、手料理をふるまうのに緊張したことなど、一度もなかった。 「えっと……どう、ですか?」  緊張に固くなる体を...