日課になるとは思ってもみませんでした
「トミセン寝癖つけてる」
「かっわい~」
女子の騒ぐ声に、炭治郎も思わず廊下へと目を向けた。
ホントだ。後ろのほう変な跳ね方してる。
かわいいな。炭治郎はこっそりと笑う。
「俺らが寝癖つけてたら、みっともないって言うくせにぃ」
男は顔かよ!! わめく善逸の頭を、うるせぇ! と伊之助が殴るまでがお約束。思わず苦笑したけど、でも確かにそうだ。
善逸たちの寝癖ならなんとも思わない。なのに義勇だと、かわいくてときめいてしまう。
きれいで格好良くてときどきかわいくて、とっても怖い鬼の体育教師。実はわりとぼんやり屋さんで、ホントはすごくやさしいことを知っている。
キュウッと胸が痛くなりうつむいたら、ひょっこりと義勇が教室に顔を出した。
「竈門、食べ終えたら指導室」
おまえなにしたの? と、善逸に聞かれても、炭治郎にも覚えがない。
首をひねりつつ素直に向かった指導室。開口一番義勇は言った。
「なにか悩んでるのか?」
「は?」
唐突過ぎて、ぽかんとしたのはしかたがない。
「さっき落ち込んだ顔してただろう?」
言われて炭治郎の顔が赤く染まった。あんな一瞬の切なさを、見ていたなんて気づかなかった。
なんでもないですと恥じらい言えば、義勇はわずかに眉を寄せつつも、小さく笑った。
「それならいい。なにかあったら必ず言え」
「はい」
なんだか口がムズムズする。顔が勝手に笑ってくる。
なんだ? と首をかしげる義勇に、寝癖と返したのは誤魔化しが半分。
「悪い、直してくれ」
放課後に面談があると、渋い顔してスプレーを渡してくる。昼休みは残り十五分。
髪に触れた手が震えないよう注意して、炭治郎はドキドキして止まらない鼓動を持てあます。
ピョコンと跳ねた寝癖がかわいいのは、ほかの人も知ってる。でもきっと、この癖っ毛の手触りを知ってるのは、学校では俺ひとり。今はそれだけでいいやと、炭治郎はほのかに笑った。