そうとしか言いようのない休日を過ごしてしまった……。おかしいな、めずらしく土日休みだから、少しでも書き進めようと思ってたはずなのに💦
モチベ上がらんので即興二次小説でやる気上げようとしましたが、無理やり制限時間内におさめたもので、かえってフラストレーションたまった気がする……。
しかし、やっぱりあえての無修正で置いときます。
ん~、支部にあげるときも、多分無修正。文字通り即興ならではの文章を見ていただくことにします。
てことで、今回の小話はこちら。
お題:早い姫君 必須要素:甘栗 制限時間:1時間 文字数:3,012
おとぎ話のエンディングはいつも
子どものころ好きだった絵本は、みんなお姫様が出てきた。眠り姫にラプンツェル、白雪姫。共通するのは多分。
「桃太郎とかのほうが好きそうなのにな」
「ん~、そういうのも好きだったけど、ドキドキしたのはお姫様のやつだったんだよ」
他愛ない昼休みの会話のきっかけは、文化祭のクラスの出し物について。今日のホームルームで決められるそれに、クラス中がなんとなくソワソワとして見える。
伊之助は食べ物の屋台一択。理由は考えるまでもない。おまえは食べるだけだろうとあきれ返る善逸はといえば、メイド喫茶と言って譲らない。
炭治郎はといえば、劇なんてどうかなと言って、ふたりから盛大に顔をしかめられた。
曰く、台詞なんて覚えられない。面倒くさい。衣装代やら小道具やらに金がかかるわりに、見返りが少ない。
そう言われてしまえば、炭治郎も反論は難しい。どうしても劇じゃなきゃというわけでもないので、ちょっと苦笑して終わるはずの話題だった。劇やるとしたらなにやんの? そう善逸が聞かなければ、こんな会話をしたことすら帰るころには忘れていただろう。
言われて炭治郎が挙げたのは、お姫様が出るやつかな、だった。
「お姫さまねぇ。確かに俺も可愛いお姫様が出る話のほうが好きだったかも」
「あぁん? 弱みそしか出ねぇ話のなにが面白いんだよ」
「そういうこっちゃねぇんだよっ。でもまぁ、伊之助には誰も情緒なんて求めてねぇから安心しろ」
相も変わらずギャアギャアと騒ぎだすふたりに苦笑を深めながらも、炭治郎が思い出すのは、小さいころの光景だ。
家がパン屋だから、小さいころから両親は忙しく、保育園が休みの日に炭治郎や禰豆子をかまってくれたのは、近所のお兄ちゃんだった。10歳年上の、中学生。それだけ年が離れていれば、保育園児の世話など面倒くさがりそうなものだけれども、お店の常連でもあった彼は、嫌な顔一つせず竈門家の子どもたちの面倒をみてくれたものだ。
そのころはまだ三男の茂と末っ子の六太は生まれていなかったけれども、五歳の炭治郎を筆頭に、年子の禰豆子、竹雄、花子とつづく四人ものちびっ子を相手にするのは、さぞや骨が折れたことだろう。まだ二歳の花子も一緒に公園などへ行くのは、中学生ひとりには荷が重かったのか、家で絵本を読んでもらうことが多かったのを覚えている。
ソファに座る彼の周りを陣取って、それからどうなったの? と、ワクワクしながら絵本を読み聞かせてもらうのは楽しかった。
彼の膝は、大概は花子のものだった。花子はそのころ一番小さかったのだから、炭治郎にも文句などない。というよりも、文句など長男の炭治郎には言えなかった。
けれども、稀に炭治郎が彼を独り占めできる機会もあったのだ。いろんな偶然が重なりあわなければ訪れない、貴重なその時間。ふたりならお出かけすることもできただろうけれど、炭治郎は、それよりも家でいつものように本を読んでもらうことをえらんだ。
いつもは花子や竹雄のものである、彼の膝の上に座って、やさしい声をすぐ近くで聞く。ときどき頭や肩の上に、彼の顎先が乗っかることも、好きだった。
中学生のお兄ちゃんだけれども、彼はどんな絵本のお姫さまよりもきれいで、やさしかった。
もしも糸つむぎを触って、俺も眠っちゃったらどうしよう。困った顔で聞く炭治郎に、そのときは俺が迎えに行って起こしてやるからと、彼はほのかに笑ってくれたものだ。
絵本のなかのお姫さまには、いつでも王子様がくる。そして最後には、ふたりはいつまでも仲良く幸せに暮らしましたで終わるのだ。
だから炭治郎は、お姫様の出る話が好きだった。
「竈門、進路指導のプリントまだ出てないぞ」
突然かけられた声に慌てて振り向けば、教室の入り口から体育教師が顔をのぞかせていた。
「うげっ、冨オエェェェッッ!!」
「すみません、後で持っていきます!」
なんとなく落ち着かないのは、思い出していた懐かしい光景のせいだろう。
近所の中学生のお兄ちゃんは、今では学校の先生で、生徒たちから恐れられる鬼のスパルタ教師だ。お姫様のようだった顔は、整ったまま精悍さを増して、女生徒からの人気は学園ナンバー2である。
「なんだ、権八郎、まだ出してなかったのかよ」
「炭治郎は店を継ぐんだろ? 専門学校?」
「ん……多分、そうかな」
歯切れ悪く言う炭治郎に、親友たちは顔を見あわせたけれども、追及はしてこなかった。昼休みが終わるからというのもあるだろうけれど、深くは聞かないでほしいのを察してくれたのかもしれない。
生徒指導室を兼ねている体育教官室へ、近づきたがる生徒は滅多にいない。女生徒から絶大な人気を誇ろうとも、基本はやっぱり怖い鬼教師が主なのだ。このドアをくぐるときは、説教されると相場が決まっている。
「失礼します」
「そこに座って待ってろ」
部屋に入ったとたんに、振り返らずソファを指差した先生に、炭治郎は小さく首をかしげた。
プリントを提出するだけのはずが、どうやらなにか話があるらしい。説教は勘弁願いたいが、話ができるのはちょっとうれしい。いや、かなり、うれしい。
「これでも食ってろ」
振り向かないまま放り投げられた包みをキャッチして、炭治郎は目をしばたたかせた。
「甘栗?」
「もらったが、一人で食べるには多い」
甘いものは嫌いじゃないが、得意でもない。知っているから、それじゃ遠慮なくと炭治郎は甘くしっとりとした栗を口に入れた。
「久しぶりに食べました」
「そうか」
もうむいてあるから食べやすい。昔食べたのは、そうだ、彼がいつもむいてくれていた。炭治郎たちのためにせっせとむきつづけて、自分はほとんど食べることなく、甘いおいしいと喜ぶ炭治郎たちに、そうかと微笑んでいた、大好きなお兄ちゃん。あのころより広くなった背中をじっと見る。
「……葵枝さんから、おまえは大学に行く気がないと聞いた」
思わず、噛まずに飲みこんでしまった甘栗にむせたら、やっと広い背中が振り向いた。
「おい、大丈夫か」
「だ、大丈夫。えっと、母さんそんなことを?」
涙目で聞けば、近づいてきた先生は炭治郎の隣に腰をおろした。
「学費は心配いらないと」
「そればかりじゃないんですけど……」
それじゃなぜ? と聞くことなく、先生は少し困ったような顔で小さく笑った。
「急いで大人になろうとしなくていい」
ドキリと、心臓が音をたてた。
気づかれてはいないはず。だって、なにも言ってない。ずっと秘密にしてきた。言っちゃいけないと。
「いくらでも待つから、ゆっくり大人になりなさい」
先生の顔で、先生の言葉で、彼は言う。
「だって……でも、なんで……」
「気づかないわけないだろう?」
あれだけ散々見つめられていたらと、彼が笑う。中学生のころとかわらぬ、やさしい瞳で。
ポンポンと頭を撫でられた。子どものころみたいに。
「今は、ここまで」
そう言って、額に落ちてきたのは、少し冷えた唇。
お姫さまじゃないけど、いつか、ふたりはいつまでも仲良く幸せに暮らしましたとつづく未来がくるんだろうか。
泣きだしそうな顔で見つめる炭治郎に、どんなときでも必ず迎えに行くと約束しただろうと、お姫さまみたいに綺麗な王子様は笑っていた。
完全に見切り発車なのが丸分かりだねぇ……( ̄▽ ̄;) お題の早い姫君がうまく消化できなくて無念。