迷宮の出口はきっとあなたの光なのでしょう
失敗したなぁ。そんな言葉を思い浮かべるのは、もう何度目だろう。
鬱蒼なんて言葉では言い切れないほど密集した緑は、炭治郎の行く手を阻む。つい先ほどまでなら踏みしめ歩けたはずの下草は、今や緑の檻だ。野ネズミよりも小さい体では、なかなか前に進めない。
戦闘においては厄介な血鬼術だけれど、あの鬼は、こんな小さくなった人を食べて満足できるんだろうか。鬼自身にとってはさして役に立たない術なんじゃないのかな。そんな呑気なことを考えて、首をひねっている場合ではないだろうけれども、あまり悲観的にはならなかった。
なにせ、一緒にいた人が人だ。鬼殺隊の誇る柱の一人、水柱である義勇とともにおもむいた任務である。義勇なら、そう時間をかけることなく鬼を斬り伏せることだろうから、炭治郎の苦境もそこでおしまいだ。
とはいえ、今や凌雲閣よりもはるか高く見える雑草のなかで、ポツリと立っているのは、なんとも心許ない。一人のうのうとなにもせずにいるのもいたたまれないしと、とにかく炭治郎は雑草の中から抜け出るべく足を進めた。
いくらも歩かないうちに、目に入ったのは大きな穴である。きっと野ネズミかモグラの巣なのだろう。落ちたら大変と脇を通り抜けようとした炭治郎が、コロリと転がり落ちたのは不可抗力だ。人の身なら、ちょっと身をすくめてやり過ごせる突風も、こんなに小さくなっては竜巻と大差ないのだから。
ともあれコロコロと穴を転がり落ちた炭治郎が、ようやく止まったのは穴の底であるらしい。どれぐらい落ちてきたものか、外の光はかなり遠くに見える。よじ登ろうとしても土はポロポロと崩れてしまって、どうにも登れそうにない。
さて、どうしたものか。困り果てていると、穴の入り口に影が差し、闇が深まった。
え? と見あげれば、外に出ていた巣の主が戻ってきたようだ。
「ちょっ、ちょっと待って! なにもしない! すぐ出るから!」
闖入者に怒っているのか、今の炭治郎からすれば熊ほどにも大きいネズミが、こちらに向かって歯をむき出して迫ってくる。
傍らをすり抜けようにも、隙間なんてほとんどない。罪のない生き物を傷つけるわけにもいかずに、炭治郎は闇が続く穴の奥へと逃げるしかなかった。
いったいどれぐらい走っただろう。横道だらけのネズミの巣穴は、ネズミから逃げおおせるには役立ったけれども、今度は出口がわからない。右も左も暗闇で、土の匂いが強すぎて匂いをたどることも難しそうだ。
「まいったなぁ」
これじゃ義勇さんにあわせる顔がないと、トホホとうつむいた炭治郎の耳に届いたのは、まさに義勇その人の声だった。
「炭治郎! どこだっ!」
いつもは小さな声なのに、轟くような大音声だ。炭治郎が小さくなってしまったせいでもあるだろうが、そればかりでもないだろう。
心配させている。炭治郎の胸に焦りと申しわけなさがわく。けれども、そのなかには浮き立つような歓喜もちょっぴりあった。
常に冷静な兄弟子が、必死に自分を案じてくれている。それがなぜだか無性にうれしい。
「ここです!」
大きく声を張り上げながら、義勇の声がするほうへ炭治郎は走った。
闇の中でも、義勇の声は空に輝く北極様のように、炭治郎を導いてくれる。迷わず走れば、小さな光が見えてきた。
「義勇さんっ!」
さらに大きく呼びかけたところで、はたと気づいたそれに、炭治郎の顔からサッと血の気が引いた。
義勇が探しているということは、鬼は倒したということだろう。と、いうことは。
どうしようっ! とあわてる間もなく、炭治郎の体が一瞬にしてグンッと大きくなった。
「うわっ!」
「っ!?」
地面から突然生まれ出たかのような状態となった炭治郎が、土まみれの頭をブルリと震わせ目を開けば、義勇が呆然と見上げていた。
どうやら足元から唐突に炭治郎が出現したものだから、体勢を崩したらしい。珍しいこともあるものだ。
「ご、ごめんなさい、義勇さん!」
あわてふためいて義勇に手を差し伸べれば、小さなため息が聞こえた。あきれと安堵をない交ぜたそれに、炭治郎が首をすくめると、義勇は小さく笑って炭治郎の手を取り立ちあがった。
「なんともないか」
「あ、はい」
言いながら体中についた土を払ってくれる様を見ると、怒ってはいないらしい。
やわらかな笑みを見ていると、なんだかドキドキと鼓動が速まってしかたがない。義勇を前にすると、ときどき炭治郎はこんなふうになる。
その理由を炭治郎はまだ知らない。義勇が自分を案じてくれることに、喜びを感じるわけも、義勇の笑みに胸がキュウッと締めつけられるのも。
理由はまだ、炭治郎の心のなか、迷路の奥底に隠されている。ときめくわけに辿り着くその日まで、きっと、あと、もう少し。
見切り発車でプランなしの書き出しだと、焦るね!💦
ダンジョン!? え、どう書けば……って、とにかく発想を飛ばすしかないか? えーと、迷宮? やっぱ地下だよなぁ。と悩むだけで10分近く消えたwww
こっから膨らませるようなネタでもないし、ブログにだけ置いときますです。はい。