仲直りの儀式は決まってるんです

 ちょっとした喧嘩の後で、黙り込んでにらみあう。
 いつもは些細なことで喧嘩になんてならないのに、どうしても譲りあえなかったのは、どちらも疲れていたからだろう。
 忙しさにかまけて、互いのために使う時間をなかなか取れなかったから、体よりも精神的な疲労がひどい。
 幼稚園に通っていたころから、ずっと一緒だったのだ。手をつないで一緒にお遊戯なんてしていたときから、そばにいるのが当たり前で、すれ違い生活なんて初めてだったから。ギスギスとささくれだった心じゃ、優しくするのも難しい。
 喧嘩は初めてじゃないけれど、こんな気持ちになるのは初めてだ。
 互いの気持ちが恋だって、気づいた高校生のときからもっと、お互いの心の距離は近くなった。高校を卒業したら一緒に住むことだって、お互い全く疑わなくて、引っ越してきたその日に
「これって同棲……?」
「同棲……だろ?」
 だって恋人なんだからと、ふたりでなんだか照れ合ったのが懐かしい。
 ダイニングキッチンのテーブルを挟んでふたり、無言のまま時間だけが過ぎていく。
 あぁ、なんてもったいない。ようやくふたりでゆっくり過ごせる時間がおとずれたっていうのに、なんで離れて座っているんだろう。
 ふたりのあいだにあるテーブルは、実家のテーブルにくらべたらおままごと用に思えるほど小さいのに、やけに広く感じてしまう。
 壁掛け時計のカチコチという音がやけに響いて、意地を張る自分にうんざりしかけたころ、伸びてきた手がぐしゃぐしゃと頭をなでた。
 自分ばかりにょきにょきと伸びた背に見合う、大きな手のひら。世界中で一番好きな彼の手。
 いつもは長男の俺のほうが、末っ子な彼を甘やかす。けれどこんな時はいつだって、彼は大人な顔で先に折れてみせるのだ。誕生日だって向こうのほうが遅いのに、彼氏面してムカつくと、俺が拗ねてみせるのもいつものこと。
 ごまかす気ですかぁ? と唇を尖らせれば、やっぱり彼は大人な顔で苦笑して、風呂入ろうかと誘ってくる。
 ちぇっ、また負けたと思いながら、安堵に笑っちゃいたくなるのをこらえてうなずいた。