毎朝お前の作った味噌汁が飲みたい。
却下。だって、飯作るの、俺だし。
一緒の墓に入ってくれ!
縁起でもねぇってマシンガンぶっ放されそう。うっわぁ、無理無理。
絶対に苦労はさせねぇ。
……うん、まぁ、きっと苦労すんの、俺ばっかだしな。なにも自分の首絞めるこたぁねぇっての。
「……やっぱ、ストレートに結婚しねぇ? が無難か……」
「ほぉ、たしかにストレートだが、やっぱテメェへたれだな。結婚しようって言うほうが決まるんじゃねぇ?」
「おわっ! ヒ、ヒル魔!? いつからそこに……」
「味噌汁がどうこう呟いてた時からいるぜ?」
いつもの待ち合わせ場所、バイクに跨ったままの葉柱の足元。膝を抱えてしゃがみ込んで、ニヤニヤ笑って見上げてるヒル魔。いつものデビルズスマイルで。
「げっ、俺、声に出してたか……?」
「おう。お陰で見通しいいったらありゃしねぇ」
言われて辺りを見回せば、通行人は皆遠巻き。不自然なくらい二人を避けて歩いてる。
「つか、テメェも来てんなら声ぐれぇかけろよ!」
照れ隠し、葉柱が喚けば。
「んー、滅多に聞けねぇもん何回も聞けるチャンスだったからな。普通プロポーズって、Noって言わなきゃ一回きりしか聞けねぇだろ?」
真っ赤に染まる葉柱の顔。でも。
よく見ればヒル魔の尖った耳の先も、ほんのり赤くて。
それに。
一回しか聞けない筈の、プロポーズ。Noと言わなければ。
そんな諸々に気づいたから。
「ヒル魔っ!」
「うわっ! テメ、いきなりなにす…」
「幸せにする! 絶対、幸せにすっから!」
一応、往来。人通りは、結構ある。遠巻きだけれど。
それなのに。
「当たり前のこと言ってんな、糞馬鹿カメレオン……」
抱き締める葉柱の腕を、振りほどかないままヒル魔が呟いたのは、十秒後のこと。
辺りを包んだ拍手の渦は、それからさらに十秒後。
祝福の拍手に感動していた葉柱だけは、知らない。
葉柱の背中に回したヒル魔の手に握られたS&Wも。
周りを見回し、拍手! との唇の動きだけでのヒル魔の命令も。
「一生に一度なら、多少の演出は幸せのスパイスってことで」
にんまり笑っての幸せそうな独り言は、ヒル魔だけの、秘密。
END